『思考の整理学』感想/グライダー人間が思考の本質と忘れる努力を学ぶ

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書評

ぼくはグライダー人間である。もちろん身体がグライダーの形をしたびっくり人間というわけではなく、あくまでたとえ、比喩である。

思考の整理学』という本を読んだ。つい最近、新装版が出たらしいが、ぼくが持っているのは旧版だ。なんで新版を出した! もう一冊買いたくなっちゃうだろ!

そんな『思考の整理学』のはじめにグライダーと飛行機が登場する。グライダーはなにかに引っ張ってもらわないと空を飛べない。対して、エンジンを搭載した飛行機は自力で空を飛ぶことができる。著者はこれを人の能力に当てはめて論じている。グライダー能力は受動的に知識を得るもの、飛行機能力は自分で思考してものごとを発見するもの、という具合だ。

そして著者は、自分で飛べない人間はやがてコンピューターに仕事を奪われるだろう、と警鐘を鳴らしている。

「AIにとってかわられないために思考力を鍛えろ」と言われるようになって久しいが、どうやら1980年代の時点ですでに人間は機械に脅かされていたらしい。

冒頭から耳が痛い話だ。

小中高と、ぼくは知識を詰め込むことに熱を入れていた。試験でいい点をとれば、クラスメイトや親にいい顔ができる。集団の中で自分の立場を確立できる。いま思えば、ほかに取り柄がなかったから勉強を頑張るしか道がなかったのだろう。運動神経は壊滅的、クラスメイトに誇れるような特技もこれといって持っていなかった。テストでいい成績をとれる、そんな自分の唯一のアイデンティティを守ろうと、まるで追い立てられるように机にかじりついていた。

グライダー能力も生きていくうえで必要なものではあるが、それ一辺倒だとおさまりが悪い。ある程度、飛行機能力も両立させる必要がある

このままだとまずい。なんとか思考力を身に着けなければ。そんな危機感をおぼえて、ぼくは『思考の整理学』を開いた。エンジンを搭載するための第一歩だ。

タイトルに「整理学」とあるように、本書では思考を整理する手助けとなる方法がいくつも紹介されている。

  • 手帳を持ち歩いてメモをとれ
  • ひらめいたアイデアはしばらく寝かせ
  • 知識は自分の価値観によってふるいにかけろ
  • 身体を動かせ
  • 寝ろ

個人的に興味深かったのが、知識を「忘れろ」と述べている点だ。

「得た知識を忘れる? なに言ってるんだこの本」と思うだろう。ぼくも思った。

しかしよくよく考えてみれば、なにかをおぼえておこうとするだけで頭のリソースを使う。知識でなくても、たとえば仕事をいついつまでに終わらせなければならないとか、そういった細々したことをいちいち頭の片隅に置いておこうとすると、ほかのことがおろそかになりやすい。部屋にガラクタがあふれていると新しいものを持ち込めないし、なにかを探し出そうとするとき大変苦労する

人の脳も同じである。思考するためには、頭の中が整理されていなければならない。整理するには、不要な知識を適宜捨てていく必要がある。この忘却を手軽に実行できるのが、睡眠であり散歩だ。しかし、不要な知識と一緒にせっかく思いついたアイデアまで捨ててしまうのは困る。

ではどうするべきか。

簡単だ。メモをとればいい

アイデアをひらめいたとき、なにかに記録しておけば、忘れても大丈夫だと思える。その余裕が、思考を活発にさせる。

そしてここからが面白いのだが、メモしたアイデアはしばらく寝かせるのがいいという。しばらくして見返す。すると、いかにもすばらしいと思えた妙案が、なんだか色褪せて見える。

これはぼくも似たような経験があるし、あなたもあるだろう。ブログの文章を書いて一晩経って見返したら、思いのほかポンコツだったと感じることはしょっちゅうだ。ひらめきも同じらしい。逆に、時間が経ってもなお面白いと思えるものは、さらに深堀りする価値がある。そうしたまだ生きているアイデアは、別のノートに書き移す。そして同じように寝かす。時間が経ってから見返すと、新たな発見が生まれることもある。

このようにして、ひとつのアイデアを熟成させていく。ちょっとした着想で終わらせず、整理、統合、抽象化して、情報をメタ化していくのだ。

価値ある思考はメモしておき、不要なものは捨てる。忘却は敵だとさんざん教え込まれてきたぼくにとって、この本の教えはまさに目から鱗が落ちる思いだった。これぞ逆転の発想である。

本書を読み終えたいま、思考にまつわるあれこれに対する解像度が上がったような気がする。知識の集め方、発想の妙、書きあぐねたときの対処法、既知から未知へ。新たな境地を切り開いた気分だ。

しかし、ここで終わらせてはならない。

読書の厄介なところは、本を読むとそれだけでなんだかわかった気になってしまう点だ。新たな考え方を身に着けることに成功して、人間として一回り成長したかのような錯覚をおぼえる。

そんなわけない。いくら知識を得たところで実践できなければ意味がない。読書はあくまできっかけに過ぎない。読み終えて満足していたら、それはただの頭でっかちだ。読書で学んだことを自分の行動に昇華していかなければ、素晴らしい読書体験も宝の持ち腐れとなる。

本を読んだだけで満足してはならない実行に移せ。そうしてはじめて血となり肉となるのだ。このことを肝に銘じておきたい。

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