『高校生のための経済学入門[新版]』感想/大人の経済の学び直し

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書評

2024年3月19日、日銀がマイナス金利の解除およびイールドカーブ・コントロールの終了を決定したそうだ。利上げは実に約17年ぶりらしい。SNSでも大きな波紋を呼んでいる。

そんな経済のニュースだが、経済オンチのぼくにはさっぱりだった。「マイナス金利が解除されるとどうなるの? なんかいいことあるの? あとイールドカーブ・コントロールってなんだか響きがかっこいい」この程度の感想しか出てこなかった。

経済と言えば高校の倫理政経の授業で触れたはずだし、公務員試験を受けたときにもミクロ経済とマクロ経済を学んだはずだ。それなのに、ほとんどなにもおぼえていない。かろうじて需要曲線と供給曲線を思い浮かべられるぐらいだ。

日ごろ利用しない知識なんて数年も経てばきれいさっぱり忘れてしまうらしい。肝心なときに使えない記憶だな!

ぼくらの生活とは切っても切れない経済のことを、なにも知らない。いくらなんでもさすがにこれはいかんだろうということで、勉強し直すことにした。

ただ、初心者がいきなり分厚い専門書に手を出しても、あまりの難解さに出鼻をくじかれるのがおちだ。だから簡単でわかりやすそうな本を選ぶことにした。で、見つけたのが『高校生のための経済学入門[新版]』である。高校生に向けて書かれているのだから、ぼくが読んでも十分理解できるはずだ。あと新書で持ち運びもしやすそう。

とはいえ、相手は経済学。いくらタイトルに「高校生のための」とあっても、優しい入門書の皮を被った獰猛な専門書の可能性も捨てきれない……

まず、最も身近な例として、親からもらったお小遣いをどのように使うべきか、という問題を考えてみます。

高校生のための経済学入門[新版] 22ページ

あれ……

大学入試という高校生の皆さんにとって重要な人生の節目も、見方を変えれば市場メカニズムという極めて経済学的な状況として解釈することができるのです。

高校生のための経済学入門[新版] 26ページ

意外とスムーズに読めるな……

お小遣いの使い道も大学入試制度も、ぼくらにとって非常に馴染み深い話題だ。いきなり「予算制約の下で効用を最大化できる行動を模索する」と言われてもちんぷんかんぷんだが、「限られたお小遣いをどう使えば自分が幸せになれるか考えよう」と言われれば「ああ、なるほどね」と納得できる。

身近なテーマから経済学とはなにかを論じており、非常に飲み込みやすい。わかりやすくかみ砕かれた説明からは、丁寧に伝えようという著者の心意気が伝わってくる。

これはぼくにも読めそうだぞ!

本書は全7章(序章を含めると8章)からなっており、はじめにミクロ経済、次にマクロ経済、そして最後に国際経済の領域について書かれている。

読んでみると、確かに入門書として最適な本だと思った。市場や景気、財政に貿易と、幅広い分野を一冊で網羅しており、基礎的な知識を一通り学ぶことが可能だ。複雑怪奇な数式は出てこないし、経済用語の説明もしっかりしてくれる。

特によかったのが、「なぜこうなるのか」という疑問がきちんと解消される点だ。たとえば、ぼくは本書を読みながら「供給曲線はなんで右上がりなんだろう?」と不思議に思った。この答えは「企業は利潤の最大化を目指すから」なのだが、本書では、この仕組みを平易な言葉で懇切丁寧に教えてくれる。

「なぜ?」がすぐ「わかった!」に変わる。こういった本は、ものすごく読みやすい。読んでいて負担がほとんどかからないからだ。読書は授業と違い、わからないことがあっても質問することができない。「なぜ?」が解消されずに蓄積されていくと、どんどん意欲が削がれていってしまう。それはよろしくない。

本書は、読者が疑問に思いそうな箇所を的確にカバーするのがうまい。だから、つまづくことなく読み進められる。これだけで本書を選んでよかったと思う。正直、内容にやや物足りなさは感じたが、そこは別のもう少し専門的な本で学びを深めればいい話だ。経済への興味が喚起された時点で、入門書としての役割は充分すぎるほど果たしたと言える。

ちなみに、マイナス金利の説明もあった。入門書だからてっきり教科書的な内容に終始するのかと思いきや、実践的なことにも紙面が割かれていてびっくりした。

それによると、こういうことらしい。

異次元の金融緩和の一環として、日銀は、民間の銀行が日銀に預けている預金(超過準備預金)の金利をマイナスに設定した

金利がマイナスになると、本来なら利息として得られたぶんを逆に手数料としてとられることになる。つまり、日銀にお金を預ければ預けるほど、手数料を多くとられるわけだ

こうなると、民間の銀行が日銀にお金を預けておくメリットは減少する。お金をとられるぐらいだったら、手元に残しておいたほうがましだと考えるのが普通だ。

民間の銀行の手元にお金があれば、それだけ企業へ貸し付けられるお金の量も増える。企業にお金が流れれば、市場に出回るお金が増え、経済が活性化する。日銀はこれを狙っていた。

もともとマイナス金利を含めた一連の金融緩和政策は、消費者物価上昇率を2%に引き上げることを目標にして開始された。この目標がある程度持続的に実現できるようになっただろうということで、今回のマイナス金利解除に至ったらしい。

……すごい! あれだけ意味不明だったニュースが、いまならそこそこ理解できる! これが成長ってやつか!

やらされている勉強はつまらないけど、自分から進んでやる勉強は楽しい!

経済に興味を持った人、イールドカーブ・コントロールと聞いてマジかっけえしか感想が出なかった人は、ぜひ本書を読んでみてほしい。

コメント

  1. イデオン より:

    ちゃんと書評をしている…
    こういう系の本ってハードル高くて今まで見て見ぬふりしてたけど一回手を出してみようかな…
    でも一旦積読を消費しなきゃ…[10冊]

  2. 二足歩行食パン より:

    10冊は大変ですね大人らしいので時間も少ないでしょうし。
    そして久々に書評してるな

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