2024年11月17日(日曜日)、ぼくは兵庫県神戸市にやって来た。
3年前に訪れたときは異人館めぐりを楽しんだが、今回は観光が目的ではない。向かうは神戸松蔭女子学院大学。阪急六甲駅から10分以上ひたすら坂道を上った先にある大学だ。いまは女子大だが、来年度から共学化して名称が「神戸松蔭大学」に変わるらしい。
なぜ片道数時間かけて坂の上の大学まで来たのか。それは「松蔭祭」で行われる、俳優・本田響矢さんのトークショーに参加するためである。
ぼくはいま、絶賛人生を迷走中だが、不断の努力を続けている俳優のお話を聞けば、やる気をもらえるかもしれない。そんな思いを抱えてやって来た。
トークショー
開演
14時トークショー開演。
体育館ステージの上手側から本田さんが登場する。会場が体育館ということもあって、一瞬学ランを着ているのかと思った。
司会「神戸に来るのはいつぶりですか?」
本田「去年の12月末、だから年末ぶりです」
司会「なにをされたんですか?」
本田「普通にプライベートで遊びに来て、友人たちと一緒に淡路島のほうへ行きました。男7人でグランピングしました。だからゆかりがあるっていうのもあれですけど、縁はあります」
司会「2017年にデビューしましたが、当時から俳優になることは考えていたんですか?」
本田「コンテストでこの業界に入ったんですけど、俳優の仕事を意識し始めたのは、1年ぐらいたってからですね。そこから芝居のワークショップに通わせてもらって。高2、高3のときに仕事を始めるまでは、警察官になりたいと思っていました」
司会「『セトウツミ』で初出演を果たしましたが、記憶に残っていることはありますか?」
本田「右も左もわからない高校生坊主だったんですが、主演の高杉さんが声をかけてくださって。本当ガチガチでした。ワンシーンだけだったんですけど、なにもわからなくて、言われるがままって感じでした」
司会「デビュー前とデビュー後で、なにか変わったと感じたことはありますか?」
本田「人に見られる仕事だっていうのは実感しました。コンテストに出たのが高2のときだったんですけど、高3になって、高1で入ってきた子が『わ!』って言ってくれて」
司会「周知というか認知されてきたというか」
ここで、本田さんの出身県である福井が話題に。
本田「(会場を見ながら)福井に行ったことがあるよって方いますか?」
客席からたくさんの手が上がる。意外な多さに本田さんが驚く。
本田「なにしに行ったんですか? なにもないのに(笑)」
司会「恐竜博物館とかじゃないですか?」
本田「恐竜博物館に行ったよって方? みんな恐竜好きなんですか?(笑)」
司会「海鮮とか鯖江眼鏡とかもありますから」
本田「眼鏡は取りに来ないでしょ(笑)。福井は田舎ですからね。こういうお仕事をしている人が少ないので、物珍しげに見られていました」
司会「話はそれますけど、福井弁ってどんな感じなんですか?」
本田「なんか、ため口でしゃべる……敬語でも出るんですけど、なんでしょうね。ちょっと韓国語っぽいと思うときもあります」
司会「方言を言ってください、っていきなり言われても難しいですよね」
本田「でも自分はよく出ちゃうんですよ(笑)」
司会「お仕事で印象に残っていることは?」
本田「まさに今日です! 学祭にこうやってお邪魔させてもらうのが、実は今日が初めてで。本当は前に広島でやらせていただく予定だったんですけど、雨でなくなっちゃって……だから今日がデビュー戦なんです」
司会「昨日の松蔭祭では雨が降っていましたが、今日は本田さんが来られるということで雨も頑張って上がってくれたみたいで」
本田「俺、晴れ男なんですよ!」
司会「そうなんですね。あれ、でも広島のときは……」
本田「弱い晴れ男なんです(笑)」
司会「弱晴れ男ですか?」
本田「中です(笑)。だから弱には勝てるけど、強には勝てないんですよ。今日は強の人がいなかったみたいです」
司会「印象に残っている共演者はいらっしゃいますか?」
本田「最近カンテレ系のドラマ『モンスター』の4話に出演させてもらったんですが、そのときご一緒した趣里さんが印象に残ってます。主演としてのたたずまいも含めてすごかったです。目の奥まで見透かされるような感覚になりましたね」
司会「主演の立ち位置についてはどうですか?」
本田「人によってもぜんぜん違うと思うんですけど、『ジャックフロスト』で一度主演をやらせてもらったときは、普段通りでいたんですけど、やっぱり主演と主演以外で出るときの違いを感じる瞬間もありました」
司会「全体的にというよりは、ポイントポイントで感じたってことですかね」
司会「お仕事のことだけではなく、プライベートについても質問していきたいと思います。まずは定番ですが、オフの日はなにをされていますか?」
本田「寝てます(笑)。寝てゲームして、ご飯食べて……。理想はですよ、朝7時8時に起きて朝食を作って、ヨーグルトとか果物を食べて、花屋に行って花を買って、お昼ご飯も買って、家に帰って花を花瓶に生けて、おしゃれなイタリアンを作るみたいな」
司会「イタリアン……パスタとかですか。いいじゃないですか。でも現実は」
本田「寝てゲームして、ウーバーして寝ます(笑)。パスタよりもラーメンですね」
司会「ラーメンお好きですよね。さっきスタッフさんに、近くのおすすめのラーメン屋さんを教えてもらったんですけど」
ここで近隣のラーメン屋の紹介がされる。
本田さん、会場のお客さんにおすすめのラーメン屋がほかにないか尋ねる。
観客1「ずんどう屋」
本田「ずんどう屋? それ福井にもあるぞ(笑)」
観客2「賀正軒」
本田「がそう? がしょうけん? 中華屋さん?」
観客2「ラーメン屋です」
観客3「魁力屋」
本田「それ東京でも見たことあるような(笑)」
観客4「8番らーめん」
本田「それ福井(笑)。本店、石川県でしょ」
司会「皆さんボケ方がよくわかってらっしゃいますね。8番らーめんはよく行かれますか?」
本田「たまに行きます」
司会「学生時代の思い出はなにかありますか?」
本田「やっぱり部活ですかね。剣道を小3から10年ほどやってましたので。憧れはサッカー部やバスケ部です。モテるじゃないですか(笑)。シンプルにチヤホヤされるというか。カッコいいなと思いながら面をかぶってエイエイやってましたが、おかげで礼儀作法は本当に鍛えられて。先生の前を通るだけで『失礼します』って言ったり、足は基本正座で、『崩せ』って言われてから足を崩すとか」
司会「サッカーというと、先ほどもおっしゃっていた『モンスター』でサッカー部員の役をやられていましたが、サッカー自体は?」
本田「ぜんぜんヘタクソです。もう、ぜんぜんヘタです(笑)。ゴールキーパーの役だったので、ちょっと特殊だったんですが、撮影前にいろいろレクチャーを受けました。こうやってボールを止めるのかとか学んで」
司会「役を通して学ぶことっていろいろありますよね」
本田「だから楽しいです」
質問コーナー
ここから、事前に募集した質問に本田さんが答えていくコーナーに移る。
Q.仲のいい芸能人は? エピソードも教えてください。
本田「『ジャックフロスト』で共演した鈴木康介くん。この前、アウトレットに2人で運転して行きました。お互い服が好きで、東京で展示会をやってると誘い合ったりして、いまでも交流があります」
次の質問用紙を引きながら、
本田「すみません、いま花粉症で鼻が詰まってるんです」
司会「スギ?」
本田「スギですね。いろいろダメなんですよ(笑)」
司会「いまのシーズンしか聞けない声を、皆さん、ぜひ楽しんでください(笑)」
Q.1日だけ女の子になって女子大に通えるとしたら、なにをしますか?
本田「えー……」
司会「どのレベルで答えればいいか悩まれてますか?」
本田「それもあります(笑)」
かなり悩んでから、
本田「女子の集まりに興味があります。放課後カラオケ行こうよとか、カフェ行こうよとか。カフェ行こうなんてないですから(笑)。あとは、かわいい格好して男子の前を気取って歩いてみたいです。いつもより香水を2プッシュ多めにつけて、(髪をたなびかせるそぶりをしながら)こうやって髪をたなびかせて」
司会「『どう? 私、決まってるでしょ?』みたいにですか?」
本田「どんな感じで男子から見られるか普段わからないので、経験してみたいです」
Q.次にやりたい髪型は?
本田「金髪のロング。わかりやすく言うと、『東京リベンジャーズ』のマイキー」
Q.やってみたい役は?
本田「警察官。もともと警察になりたかったので、警察官はやってみたいですね。新米でもいいし、刑事みたいな役でも。役も長いじゃないですか。若くてもいいし、歳を重ねてからでもいける。高校生の役はそろそろ無理かなって思います」
司会「本田さんの雰囲気なら、あと10年は大丈夫ですよ!」
本田「10年だともう30代に入っちゃってますよ!」
司会「着てみたい制服とかはあるんですか?」
本田「スーツは憧れますね。ドラマとかで、警察官なのにラフな格好をしている人がいるじゃないですか。バサッと羽織るような。ああいうのもいいですよね」
Q.もうすぐ高校受験です。応援してください。あと好きな教科はなんですか?
司会「(質問者を見て)泣いてますか?」
本田「泣いてないですよ! 花粉症ですよね?」
本田さん、質問者に「頑張ってください」と応援メッセージを送る。
本田「好きな教科は数学です」
司会「あれ、なんでしょう、いまの会場のざわめきは(笑)」
本田「どっちかっていうと、理系ですね」
司会「高校生になったら、これだけはやっておけみたいなことはありますか? アドバイスをぜひ」
本田「やっぱり青春ですかね。購買とか。購買なんて言葉、もう聞かないじゃないですか。憧れの先輩を見つけて、購買にいないかな、とか青春を楽しんでください。あとはやっぱり部活。やりたいことをやって、みんなでひとつのことを成し遂げるといいと思います」
Q.女の子の好きな髪型は?
本田「似合っていればなんでもいいんですけど、しいて言うならロングですね。セミロングも好きです。色は黒髪」
司会「女子になれたらどうするか、の質問のとき、長い髪をイメージされていましたもんね」
ここで髪を気にし始める人が続出する。
Q.兵庫で食べたいものは?
本田「逆に、これがおすすめだよとかありますか? 撮影でけっこう神戸にいて、いろいろ食べたんですけど、東京組だったので神戸のおいしいお店とかぜんぜん知らなくて」
客席から様々なおすすめが飛び交う。
観客5「カツ飯」
本田「カツ飯!? カツ丼じゃなくて!?」
観客6「海鮮」
司会「イカナゴのくぎ煮もありますよね」
本田「へえ! それはお土産で買えるんですか?」
司会「お土産でも買えると思いますよ」
観客7「パン」
本田「パン!? ベーカリー?」
観客がパン屋の名前を叫ぶが、距離があって店名を聞き取れない本田さん。右の手のひらを顔の横に添えながら、何回も聞き返していた。
本田「パーフェクト?(笑)え、ぜんぜん聞こえない。エフ? なに、卍?(笑)」
ステージの縁ぎりぎりまで近づいても聞き取れず、結局、店名がうやむやのまま会話は進んでいく。
本田「どこにあるお店ですか?」
観客7「須磨」
本田「須磨? ここから近いですか?」
司会「15分ぐらいじゃないでしょうか?」
客席の前のほうから、「30分」と声が上がる。
本田「30分? 倍やないか!(笑)」
「須磨 駅近 ベーカリー」で調べたら『ファンベック』というお店が出てきたけど、これかな?
司会「ちなみに、神戸でラーメンは食べられたんですか?」
本田「食べてないです(笑)」
Q.香川に遊びに来てください
本田「えっ、シンプル!(笑)香川って、淡路島を超えてすぐ? 淡路島の先……は徳島ですね!(笑)愛媛……ではないですよね!(笑)淡路島を抜け先が徳島で、そのあとが香川ですよね」
司会「香川の名物はご存じですか?」
本田「うどん! 香川うどん食べてみたいです」
司会「食べ物のために旅行することはあるんですか?」
本田「それはないですね」
Q.最近自炊した中で、1番おいしかった料理は?
司会「ウーバーユーザーということでしたが(笑)」
本田「自炊もたまにしますよ! よくタコライスやガパオを作ってます。タコライスは意外と簡単なんですよ。レタス敷いて、焼いた肉を味付けしてのっけて、チーズかけて、あと目玉焼き焼いて。野菜と肉とご飯の3つを同時に食べられるので、栄養バランスがいいと勝手に思ってます(笑)」
司会「学生さんにもおすすめですね」
本田「栄養もあるので、ぜひ作ってみてください。なので、(おいしかった料理は)タコライスとガパオですね」
Q.演じたい役柄は? それから共演したい方はいらっしゃいますか?」
司会「(質問者のほうを見ながら)泣いてますか?(笑)」
本田「泣いてないです。泣かせないでくださいよ(笑)。花粉ですよね?」
このくだり、さっきも聞いたぞ。
演じたい役柄については同じ質問が前にもあったため、省略。
本田「んー、たくさんいるんですけど……綾野剛さん」
客席からガタゴトと物音。
本田「綾野、剛さん……!?(笑)なんかいまバタバタしてたから。あとは満島ひかりさん。映像を見て、すごいなと思います」
Q.学生時代、1番印象に残っていることは?
本田「部活、学祭……やっぱり部活! もう一問いきましょう」
Q.お気に入りの作品ベスト3を教えてください。
本田「これは自分の出演作品ですかね……それとも全部? 考え出すと30分とか1時間ぐらい悩んじゃいますので、いまパッと思いついたものだけ。『余命10年』です。心が動かされました」
肝心の作品名がうろおぼえ。余命ってついていたのは確か。
Q.大学に入るとしたら、なにをしたいですか?
司会「これは学祭にぴったりの質問ですね」
本田「大学に入ったら……」
司会「いろいろありますよね。どんな学部に入りたいとか、どんなバイトをしたいとか」
本田「バイトしたいです! いまふたつ思いついたんですけど、ひとつがサークルに入ってみたいです。サークルって、高校の部活とは違ってラフなイメージがあるので、みんなと楽しみたい。バイトは、スタバの店員をしてみたいですね。最後に『Thank you』とか書くじゃないですか。あれを書いてみたいです(笑)。髪染めてる人が来たら『nice hair』とか。素敵なコートを着た人だったら、『nice cort』とか書いてみたい」
司会「本田さんのところだけ列がすごいことになりそうですね(笑)」
終盤
最後はトークショー恒例の抽選コーナー。3名の方にサイン入り色紙がプレゼントされるとのことで、会場に緊張が走る。なんならぼくもちょっと緊張していた。
もちろん当たらない。
運よく当選した3名の方が壇上に上がり、サイン入り色紙を受け取る。司会者の方いわく、本田さんは綺麗な字を書くらしい。
司会「最後に写真撮影をしたいと思います」
準備が整うまでの間、ステージの左右に移動しながら客席に向かって手を振ってくれる本田さん。うーん、イケメンだ。
司会「最後に、一言お願いします」
本田「今後も仕事を続けていくつもりなので、よろしくお願いします!」
感想
神戸の滞在時間よりも移動時間のほうが長いというバランスの悪い旅行だったが、それでも大満足だ。いや、欲を言えばトークショーがあと2時間ぐらいあってもよかった。質問BOXに入っている質問、ぜんぶ答えてもらいたかった。1時間は短いよ!
トークショーのいいところは、なんといっても俳優の素顔を間近で見られることだ。ぼくの席は後方だったのでぜんぜん近くなかったが、画面越しで一方的に見るのと実際に見るのとではやっぱり違う。「本当に素顔だったのか? 実はこれも演技だったりして?」という一抹の疑念もあるが、たぶん素顔だろう。
一人称を「俺」と言っていたり、客席からの声に鋭いツッコミを入れていたり、柔らかそうな雰囲気とのギャップに不覚にもしびれてしまった。これが、かの有名なギャップ萌え……? ドラマの役だけを見ていたら、きっと知る機会はなかったと思う。
最初から最後までずっと楽しかったが、中でもラーメンのくだりで繰り広げられたテンポのいい会話が特に印象的だ。まるで漫才を聞いているかのような心地よい面白さがあった。司会と本田さんのふたりだけで完結させるのではなく、お客さんも巻き込みながらトークを展開していて、すっかり引き込まれてしまった。
短い時間だったが、貴重な経験をすることができた。しばらくは人生を頑張れそう。ありがとうございます。
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