3年ぶりに見た2度目の『天気の子』がやばすぎた

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先週テレビで放送された『天気の子』を見て、ひどく驚いてしまった。映画が公開された当時と、まるで違う感想を抱いたからだ。

『天気の子』を最初に観賞したのは、2019年、いまからおよそ3年前。映画公開後しばらく経ってから劇場に足を運んだ。

当時の僕は、残念ながらこの映画と反りが合わなかったらしい。ブログの記事の中で主人公に感情移入できなかった旨を延々と書き連ねている。久しぶりに記事を読み返してみたら散々な書きようで、つい笑ってしまうほどだった。よかった点にはほとんど触れられておらず、終始否定的。よっぽど期待に沿わなかったようだ。

当時の感想▶映画『天気の子』感想/モヤモヤ感が残る結末(ネタバレ有)

ところが今回抱いた感想は好意的なものだった。

盗んだバイクで走り出すよろしく、拾った拳銃で女の子の危機を救った主人公なわけだが、その無茶無鉄砲ぶりにどこか心地よさすら感じたのだ。

もちろんフィクションの世界だからこそ許される暴挙であるわけだが、大人に対して無謀にも立ち向かおうとする主人公の姿はどこか勇ましく映った。

一人の女の子を救うため、天気が狂ったままでもいい、東京が水没してもかまわない、そう啖呵を切った主人公。「よく言った!」といまの僕が感じたことを3年前の僕が知ったら、きっとびっくりするだろう。まるで真逆の感想だからだ。

3年前、『天気の子』が劇場で公開された頃、僕はまだ役場で働いていた。上司とうまが合わずにトイレで涙を流したこともあれば、本音を呑み込み己の感情を押し殺したこともあった。

行動に責任が伴う社会人となり、世界が一変した。学生の頃は穏やかだった街並みが、公務員への厳しい視線が向けられる緊張感漂う空間へと変貌した。公私ともに公務員としての自覚を持って行動するように。その規範が重石となった。

だからこそ、感情につき従い、一人の女の子のためにルールを壊そうとする帆高の姿を見て、ひどく抵抗感をおぼえた。自分たちが維持しようとしている社会を壊されていくようで、嫌だった。

公務員は前例主義であり、保守的傾向が強い。いつの間にか保守的な色に染まった自分には、東京水没という大変化には耐えられなかった。たとえ映画上でその変化が否定的に描かれなかったとしてもだ(水没した東京で、人々は水上交通を発展させてたくましく生きている様子が描かれている)。

いまは違う。僕は仕事を辞め、ときおりブログを更新しながら、田舎の隅っこで慎ましく一人で暮らしている。わずらわしい人間関係にとらわれず、人との交流は、たまに仲のいい友人と遊びに出かけるぐらい。孤独を時折感じる一方、のびのびとした開放感に包まれている。将来への漠然とした不安は相変わらずだが、少なくとも以前よりは息苦しさが減ったように思う。

だからだろうか。帆高を見て、前のような否定的な感情を抱かなくなったのは。むしろ好感を持ったのは。

3年前の記事で、もし社会の歯車になる前にこの映画を見ていたらきっと違う景色が見えたに違いない、というようなことを書いた。けっこう当たっていたのかもしれない。現に、社会からドロップアウトしたいま、『天気の子』を前にして抱いた感想はずいぶんと変わっている。

もうひとつ感想が変化した理由としては、東京への憧れがバイアスとなり、映画全体を好意的に捉えるようになったという面もあるかもしれない。

無計画で東京にやってきた帆高は、圭佑に拾われ、夏美とともにライターの仕事を始める。そして陽菜と出会い、晴れ女としての活動を一緒にはじめ、東京の一員として迎えられる。美しい映像とともに描かれる泥臭くも希望に満ちた東京を見て、あの大都会に行ってみたい、そう強く思った。

『君の名は。』でも、田舎暮らしの三葉が都会暮らしの瀧と入れ替わり、東京の暮らしを満喫するシーンがある。RADWIMPSの挿入歌と共に流れたシーンは、代わり映えのしない日常に嫌気がさした心をひどくかき乱した。

フィクションの世界は、観客の心をより大きく動かすような構成になっているそんな世界に憧れてしまうと、現実が陳腐なものに成り下がることは重々承知している。映画のように、一生忘れないような経験も大切な人との出会いも起こらない。実際に東京に移り住んだところで、待ち受けているのはいまと同じ灰色の平凡な暮らしだろう。それでも感情の動きは止められなかった。

思わず憧れてしまうような東京暮らしを始めた帆高を、僕はとてもうらやましく思った。

同じ映画を観て、1度目と2度目でこれほど異なる感想を抱いたのはたぶん人生の中で初めてだ。鑑賞するときの立ち位置、感情、肩書き、そういったものによって見方は180度違ってくることを実感した。

『君の名は。』そして『天気の子』と、新海誠監督作品が社会現象まで引き起こした理由の一端を垣間見た気がする。新海誠監督の作品は刺さる人には刺さるそうだが、なるほどこういうことかと膝を打った。

これほどの映像体験ができる映画に出会えたことを、僕は幸運に思う。

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