『嘘つき少女と硝煙の死霊術師』岸馬鹿縁(著)感想

書評

第15回小学館ライトノベル大賞審査員特別賞受賞作品。

作者は岸馬鹿縁きしばかえん先生、イラストはノキト先生。

ゲスト審査員であるカルロ・ゼン先生(代表作『幼女戦記』)が賞賛した本書は、死霊術を操る少年と、彼の手によって蘇った死骸の少女が活躍するファンタジー小説です。

死霊術という陰気な響きからダークっぽいお話かなと思っていましたが、暗澹たる雰囲気はそれほどありませんでした。

ライトノベルらしい、スピード感あふれる展開と読みやすい文章が特徴です。ケモミミ少女や女騎士も登場し、国家を揺るがす陰謀に立ち向かっていきます。

つい先日、本書とはまるで真逆の死にまつわる物語を読んだばかりということもあり、同じ死という事象に対する切り込み方の違いが興味深かったです。

作品情報
  • 出版社:小学館
  • レーベル:ガガガ文庫
  • 刊行月:2021年9月

あらすじ

死霊術――それは死者を蘇らせ使役する魔導の秘奥。それを操る術師たちは国にあだなす存在を密かに粛清するという役割をもって、ヴェルサリウスという国家の陰となる基盤となった。その術師の一人であるウィリアムは、相棒の“死骸デッド”ライニーとともに龍を使役する盗賊の粛清を行うなか、国を、そして死霊術師たちそのものを揺るがす第二の革命の存在を知る。革命派の襲撃によってライニーを失いかける絶望の底で、ウィリアムは彼女との再会を願った最初の夜の記憶を思い出していく。これはたった一人の少女のために、死を否定した少年の物語。

『嘘つき少女と硝煙の死霊術師』裏表紙

主な登場人物

  • ウィリアム・ジッドルッド……散弾銃を引っ提げた死霊術師。皮肉屋で大食漢。大皿十三皿はぺろりといける。死霊術の腕はピカイチ。
  • ライニー……ウィリアムが蘇生させた死骸。天真爛漫な少女。ウィリアムと抜群のコンビネーションをみせる
  • リア・ジズ……獣人の死霊術師。動物の死骸を使役することに長けている。現在、11歳。
  • アイリーン・フォン・ローズヴェルク……ヴェルサリウスの治安を守る女性騎士。公正命題を絵に描いたような人物

感想

国家を陰から支える者たちの戦い

ヴェルサリウス評議国を陰から支える死霊術師たち。彼らは日の目を見ず、市井には存在すら知られていない。ただ粛々と、国家にあだなす敵を秘密裏に葬り去り続ける。

主人公のウィリアム少年は、そんな死霊術師の一人。ある事件をきっかけに、人道を踏み外す覚悟を胸に魔導の秘奥である死霊術に手を伸ばしました。その後は死霊術師として、自らが蘇らせた死骸であり相棒でもあるライニーとともに、数々の事件を解決へと導いていきます。

いやー、いいですね。国家を裏から支える秘密の組織。所属する術師はみな二つ名がつき、『狩人』やら『雪狼』やら『店主』などと呼ばれています。まさに厨二心のど真ん中を射抜いてくる設定。

事件解決の手柄は表を司る国命騎士リーガルナイトに持っていかれてしまうので、目に見えるやりがいを感じられないブラック部署ではないかという気もしないではないですが。ただ、そのあたりのことにウィリアムは無頓着です。

物語は、ウィリアムとライニーが国家を脅かす盗賊団に捕まるという、いきなりのピンチから幕を開けます。縄で縛られ、普通なら泣き叫ぶところ……ですが、ウィリアムとライニーは軽口ばかりを叩き、盗賊団のほうが逆に不安がるという状況に。余裕綽々の態度に見合った実力をウィリアムたちが発揮し、盗賊団はあっという間に壊滅。ばっさばっさ敵を薙ぎ倒していく様子は読んでいて清々しい。

一仕事終えたウィリアムたちですが、息つく暇もなくさらなる事件の調査を命じられます。ヴェルサリウス評議国内で多発する呪物“魔刃”を用いた傷害事件、そして国そのものを崩壊させるクーデターの危機。

ときには危機的状況に陥りながら、愛する人のために戦いに飛び込むウィリアムの熱い姿にはぐっとくるものがありました。

悪党に命乞いをしたらどうなるかなんて、お前が一番わかってるだろ?

『嘘つき少女と硝煙の死霊術師』 30頁

ロクでなし死霊術師と嘘つき少女の絆

本書の見どころのひとつはやはり、ウィリアムとライニーの強い信頼関係でしょう。

ライニーのため、散弾銃を引っ提げ無謀とも思える戦いに身を投じるウィリアムの想いの強さに痺れました。そして、そんな彼を信じ続けるライニー。物語後半、ライニーがウィリアムに対する本心を吐露するシーンは読んでいて胸が熱くなりました。天真爛漫な笑顔の裏に隠された葛藤を知り、頭をガツンと殴られた気分です。

普段の軽口の応酬からは想像できないほど、お互いのことを深く大切に想っている二人。

死霊術という禁忌により生じた関係でありながら、どこか美しくも感じられます。

とてつもなく重い過去を背負った二人が、決して挫けず、行手を阻む敵を容赦なく打ち倒していくシーンはカタルシスが半端ない!

やっぱり主人公が無双する話は好き。敵が沈む瞬間はスカッとします。

鍛錬を積んだ大人が年端もいかない少年に負かされるのはどうなの、と一瞬思いましたが、よくよく考えてみれば現実のスポーツ界でも中高生が大の大人を打ち負かすことは多々あります。一途で真っすぐな意思と、歪みきった意思の違いが如実に表れた結果かもしれません。

ライニーが拐かされる展開は少々鬱々としますが、その後の主人公が活躍する展開への布石だと思えば許容範囲。

悲惨な過去をバネに、才能を開花させた主人公が愛する者を救うために活躍する――王道的ストーリーは目新しさにやや欠ける一方、やっぱり安定した面白さがあります。

ライニー救出作戦からの展開が胸アツでした!

最後に

構成はシンプル、だけど面白い。

コミカルな会話劇あり、白熱するバトルありの充実したファンタジー小説でした。タイトルに込められた意味がエモい、というか泣けます。

次はアイリーンの日常回も見てみたいですね。本書では基本、戦闘シーンがほとんどだったので。

いつかまたロクでなし死霊術師と嘘つき少女の最強コンビに出会える日を楽しみにしています。


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