『青い春を数えて』武田綾乃(著)感想

書評

本作品は、『響け! ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部へようこそ』などで人気の、武田綾乃氏の描く青春小説です。

あらすじ

放送部の知咲は、本番の舞台にトラウマがある。だが、エースの有紗の様子が変で――(「白線と一歩」)。怒られることが怖い優等生の細谷と、滅多に学校に来ない噂の不良少女・清水。正反対の二人の逃避行の結末は(「漠然と五体」)。少女と大人の狭間で揺れ動く5人の高校生。瑞々しくも切実な感情を切り取った連作短編集。

青い春を数えて

感想

青春と聞き、真っ先に思い浮かべるのは爽やかな学校生活だと思います。

同級生たちと勉学や部活に励み、休み時間や登下校時間にくだらない話で盛り上がる。そんな時間でしょうか。

幸運なことに、僕はそれなりに楽しい高校生活を送ることができました。部活で全国を目指したわけでもめざましい成績を残したわけでもありませんが、仲のいい友人たちとただただ喋りながら時間を潰すといった日々を送っていました。

大人になったいま、1番戻りたいと思う時間です。

しかしその一方で、忘れたい出来事、苦い思い出もいくつか存在します。

青春はきらきらと輝くばかりではありません。

誰かと比べて自分はなんて劣っているのだろうかと劣等感に苛まれる。仲間外れにされまいと自分を偽ってまわりに迎合することに息苦しさを感じる。

本作は、そんな青春のリアルな負の側面、苦しさを描いた作品です。

理想と現実の違い、大人たちが決めた型にはまることへの抵抗感、同級生の輪から浮くことへの不安。

大人になったいまでも、非常に共感できる内容でした。あのときの自分もこんな悩みを抱えてたなあ、と読み進めながら何度も思いました。

情景描写も美しい! 第5章で海の景色が出てきますが、そのエモさといったら。

少しずつ変化していく高校生たちの心理描写も秀逸です。

この『青い春を数えて』を読めば、きっと10代のころに抱えていた生きづらさや悩みを思い出すことでしょう。

誰もが共感をおぼえる5つの物語

この本は5つのお話から成り立っています。それぞれタイトルは、「白線と一歩」「赤点と二万」「側転と三夏」「作戦と四角」「漠然と五体」です。あるお話に出てきた登場人物が別のお話でまた登場する、連作形式の小説です。

各話に登場する女子高生たちは、みなそれぞれ人には見せられない一面、悩みを抱えています。

白線と一歩

本章の主人公となるのは、放送部に属する少女・宮本知咲です。

彼女は高校1年生でNコン(NHK杯全国高校放送コンテスト)に出場した際、緊張のあまり頭が真っ白になってしまいました。その出来事以来、表舞台に立つことを避けるようになります。

同時に、自分が失敗したコンテストで実力を発揮した同級生に対して、劣等感を抱くようになります。

そんな知咲ですが、部長となった同級生・有紗からとある後輩の面倒を見るようにお願いされます。

なぜ自分が選ばれたのか。なぜ後輩の面倒を見る必要があるのか。

やがて知咲は、その疑問の答えとなる有紗の真意を知ることになります。

赤点と二万

本章の主人公である辻脇奈菜は、効率的な生き方を望む高校生です。私立受験に必要ない教科だからと生物を切り捨てるなど、余計なことをするのを嫌います。

そんな彼女ですが、生物の補修を一緒に受けることになった一人の男子生徒に興味を持ち始めます。

男子生徒の名は、長谷部。

模試では一位の成績をとり、志望校判定はA判定。そんな優等生の彼がなぜ補修を受けることになったのか。

最短ルートを進むことを重要視している奈菜ですが、その一方で、自分が切り捨てたものの中で生き生きと活動する同級生を心の底では羨ましいと思っています。

損をしないように生きてきた自分にはいったい何があるのか。自分はずるいのだろうか。

そんな苦い思いを抱きながら、彼女は長谷部と言葉を交わしていきます。

側転と三夏

料理部に所属する森崎真綾は料理が得意。作った料理の写真をSNSに投稿しては、フォロワーからの評価をもらうことに喜びを感じています。

そんな彼女には大学生の姉・咲綾がいます。

自分とは違い愛嬌のある姉。誰もが手を貸してやらなきゃと思うなにかを持つ。真綾は姉に対し、複雑な感情を抱いています。

なんでもできるふうに装っているうちになんでもできるのが当たり前と周囲から認識されるようになってしまった。そんな真綾の苦悩が本章では描かれています。

作戦と四角

本章で登場する少女、米谷泉は、大の眼鏡好き。友人からは、常に眼鏡好き好きビームを出していると指摘されるほど。

ボーイッシュで学校でもスラックスを履き、同性である女子からの人気が高い彼女ですが、実は自分が性別に縛られることを嫌っています。

ある日、泉はクラスメイトのすみれと一緒に下校することに。会話の中で、なぜスラックスを履いているのか、泉はその理由を明かします。ところがクラスメイトから返ってきたのは「可哀想」という同情の言葉でした――。

漠然と五体

委員長でもあり学校では優等生で通っている細谷は、とある理由から学校を休んでしまいます。最寄り駅に着いたにも関わらず、電車から降りずにそのまま車内に残り続けます。

学校をさぼった細谷が電車の中で出会ったのは、同じクラスの清水千明です。

整備されたレールから逸れるのを恐れる少女と、早く大人になりたくて背伸びをする少女。

優等生と不良少女。

なにからなにまで正反対のふたりが、ひょんなことから行動をともにすることに。

青春を振り返る

損得で考えてきた高校時代

僕が特に共感をおぼえたのは、2章の「赤点と二万」と5章の「漠然と五体」です。

中学、高校時代の僕の取り柄といえば学校の勉強ができることぐらいでした。だから数少ない取り柄を活用し自尊心を保つため、勉強以外のことは重要でないと半ば切り捨てるような真似をしていました。

部活は文化系に入っていましたが、たいして真面目に活動はしていませんでした。いま思えば、真剣に取り組んでいた部員たちに申し訳なかったです。

2章で特に印象的に残った2つのセリフを紹介します。
1つが、塾講師の先生が言った言葉。

「損得でしか考えられない人生って、やれることが狭まっちゃうから結局損してる気がするんだよね」

青い春を数えて 71頁

もう一つは、優等生の長谷部が言った言葉です。

「勉強が未来への投資とするなら、部活って今の消費なのかなって思うんだ」

青い春を数えて 77頁

ガツンと頭を殴られたような気分でした。いやあ、耳が痛い。

損得に拘泥するあまり、僕は高校時代に投資と消費の配分を間違えたのかもしれません。大人になったいまでも青春小説で描かれる世界に憧れ、昔の自分に「もっといまを楽しめ」と伝えたいと思ってしまうのは、おそらくそれが原因でしょう。

通り過ぎて初めて、10代のあの頃にしかできなかったことがいかに多かったか、身に染みてよくわかります。

2章「赤点と二万」を読みながら、ひどく心がさざめき立ちました。

周囲から浮きたくない

僕は、マジョリティに埋没したいタイプの人間です。だから、誰かと話すときも自分の好きなものを全面に押し出すことに躊躇いをおぼえます。

5章「漠然と五体」の中で、なぜ細谷は好きな映画を聞かれ、スマホで映画ランキングを調べようとしたのか。その行動理由が痛いほどわかります。自分と同じ意見の人が誰かいないと、すぐに不安になってしまう。

なにか商品を買うときも、自分の意思よりもネットなどの評価の高さ低さばかりを気にしていました。買い物へ行くときには商品のネットの評価を調べられるよう、スマホが手放せません。

この章の終盤で、主人公の細谷はあれほど肌身離さず持っていたスマホを海へ投げ捨ててしまいます。びっくりしました。決断を下すのに、いったいどれだけの覚悟が必要だったんだろう。

行動を起こすきっかけとなったのは、同じクラスの清水千明とばったり電車の中で出くわしたことでした。

学校では一切関わりがなかった二人が出会うことにより、心境に変化が生じることになったのです。

他人に敷かれたレールを無視して、自分の足だけで道を作る。私は、そんな強い人間になりたかった。

青い春を数えて 207頁

細谷の心境は、レールから逸れることを恐れてきた自分と重なる部分があるような気がしました。

僕は細谷のことが羨ましい。たとえ一時であれ、自分を変えられるほどのきっかけを与えられたのですから。

小説を読むたびに、主人公たちが成長する姿に嫉妬のようなものをおぼえます。物語に登場する彼らは必ず変化するきっかけが与えられる。積極的に行動したおかげである場合もあれば、幸運が向こうからやってくる場合もあります。

現実はそう簡単にはいきません。人生が変わる出来事、人物との出会いなんてそうそう起こりません。

最後に

読後、物語の余韻がしばらくの間消えませんでした。

青春小説は懐かしいあの頃に想いを馳せながらノスタルジックに浸れる一方で、自分の青春との差を味わって愕然とすることがあります。ゆえに、読み終えたときには清々しさと同時に一抹の寂しさもおぼえます。

その感情の起伏こそが、読書の醍醐味でもあるわけですが。

5人の少女たちが前に進もうと懸命にもがく姿は、見ていて勇気をもらえます。

高校生のときに読んでみたかったと思うようなお話でした。


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