『ナキメサマ』阿泉来堂(著)感想

書評

第40回横溝正史ミステリ&ホラー小説大賞<読者賞>受賞作。

作者は阿泉来堂(あずみらいどう)先生。

最近ホラー小説にはまっているので、次になにを読もうか迷っていたところ、前々から気になっていた本書を購入してみました。

血を流した女が目玉の載せられた盆を持つカバーイラストからしておどろおどろしさが伝わってきます。夜にはあまり直視したくないタイプの絵ですね……。夢に出てきそう。

本作は、北海道の山村を舞台にナキメサマと呼ばれる異形の怪物の謎に迫る物語です。

ホラー色に負けず劣らず、ミステリとしての要素も強い。

油断しているとすっかり騙されます。

帯や裏表紙の謳い文句に偽りなしです!

あらすじ

高校時代の初恋の相手・小夜子のルームメイトが、突然部屋を訪ねてきた。音信不通になった小夜子を一緒に捜してほしいと言われ、倉坂尚人は彼女の故郷、北海道・稲守村に向かう。しかし小夜子はとある儀式の巫女に選ばれすぐには会えないと言う。村に滞在することになった尚人達は、神社を徘徊する異様な人影と遭遇。更に人間業とは思えぬほど破壊された死体が次々と発見され……。大どんでん返しの最恐ホラー、誕生!

『ナキメサマ』裏表紙

主な登場人物

  • 倉坂尚人……小夜子の元恋人。小夜子を捜しに稲守村を訪れる
  • 有川弥生……小夜子の知り合いだという女性。連絡のとれなくなった小夜子の安否を気にかける
  • 葦原小夜子……故郷の村に帰省したところ、とある儀式の巫女に選ばれる
  • 那々木悠志郎……ホラー作家。全国各地の怪異奇譚を集めている。変人

感想

意外性に富んだストーリー

人里離れた山村で怪異が起き、主人公がそれに巻き込まれる。

上記の流れはホラーにおけるテンプレートと言えるでしょう。

◯◯村とでてくると、「ああ、閉鎖的な村で余所者に対して意味ありげな態度をとる村人たちが出てくるんだな。怪しげな儀式を行って、怪異を鎮めるなりなんなりしようとしてごたごたが起こるんだな」というようにある程度、物語の流れの予測がついてしまいます。つまり、似たような展開になりやすい。

だからこそ、他の作品との差別化を図るため、作家先生方は日夜趣向を凝らそうと心を砕いておられます。

その点、本書はかなり意外性のある作品です。主人公が山村を訪れることになりそこで秘密の儀式や怪異に巻き込まれていく、という話の大筋はテンプレートに沿っていますが、大掛かりな仕掛けが施されており、単純な土俗的ホラーで終わりません。

必要な伏線がしっかりと織り込まれているので、読み手が推理することも可能です。

見事見破ることができれば「やった、見破れた!」と達成感を得られますし、わからなかったときは次々と明らかになる驚きの真相を前に衝撃と爽快感をおぼえるはずです。

読了後にもう一度最初から読み直すと、この行動の裏にはこんな意味があったのかと新たな気づきを得られます。

これだけの仕掛けを盛り込みながら、破綻させることなくまとめ上げたところがすごい。

『ナキメサマ』では、「僕」と「私」の二つのパートが交互に語られます。ところが、なぜか村長がパートごとに異なります。

「僕」のパートでは村長は柄干浩一 、一方「私」が語り手のときは、村長は柄干耕造となっています(それぞれ144頁、71頁参照)。

このことから、同時進行で語られていたと思われた二つのパートが、実はそうでないことがわかります。

個性的なホラー作家・那々木悠志郎

那々木悠志郎は作中屈指のあくの強いキャラクターです。

登場シーンからなかなか個性的。

主人公が作家・那々木悠志郎の名前を知らないことを知ると大袈裟に嘆いてみせたり、わざわざ自分の著書を押しつけた挙句にサインまで書くという徹底ぶり。

一連の怪異に巻き込まれてもなおホラー作家根性を見せつける姿は、呆れを通り越して感心の念すら抱きました。

なかなかいい性格をしています。

とはいえ、那々木は決してただの変人ではありません。途中からは、頼りない主人公を引っ張る形で事件の背景を探り始めます。

各地の怪異を集め歩いているだけあり、知識も豊富です。

ねぶた祭りやなまはげ信仰に関するうんちく、そして終盤に語られる怨霊を鎮めるための儀式に関する考察は面白く読めました。

怖さのレベルについて

ナキメサマの描写はおどろおどろしく、想像しただけでもかなり怖い。

なにかを隠している村人や閉塞的な村の空気感もひしひしと伝わってきて、ずっと気分が落ち着きませんでした。

ただ個人的には、ホラー小説の中では怖さが控えめなほうかなと思いました。

この小説の舞台が人里離れた山村であり、普段の自分の生活圏とは大きく離れているからでしょうか。

閉じられた山村に足を運びさえしなければ自分がこの小説の主人公ような状況に置かれることはまずないだろうということで、あくまでフィクションだと割り切ることができる。逆に、たとえば都市に住む若者が白無垢姿の怪物に襲われるという話だと、これは自分の身にも降りかかる可能性が高いと思うわけで、怪異が身近に感じられます。すると、より一層恐怖を感じてしまう。

恐怖の根源が身近なところから離れているぶん、怖さが和らげられるのかもしれません。

最後に

ぞくりとするホラーとしての怖さ、伏線が綺麗に回収されていく高揚感、そのどちらも楽しめる作品でした。

注意点として、作中で登場する人物の多くがとにかく自己中心的なクズばかりであることがあげられます。まともそうな人間が数えるほどしかいないという地獄……ある意味ホラーです。犯した罪に罰が下るのを期待しましょう。

人は未知なるものを恐れます。そして、土着信仰は外部の人にとっては未知の領域です。だからこそ、閉じられた村で行われる儀式と聞くと不安を感じてしまうのでしょう。

古くからの因習が根づく山村の暗い雰囲気、ナキメサマが撒き散らす恐怖。

巧みな描写と緻密に計算された構成が見事でした。

帯や裏表紙に大どんでん返しとありますが、気持ちよく騙されるためにもあまり変に構えずに読むことをおすすめします。

次回作『ぬばたまの黒女』も気になります。


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