『ぜんしゅの跫』澤村伊智(著)感想

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書評

比嘉姉妹シリーズ第5弾です。タイトルの読みは、『ぜんしゅのあしおと』。

作者は澤村伊智先生。

本書はホラー短編集であり、全5話が収録されています。

どれも不気味さや気持ち悪さの残るお話ばかり。

本書単独でも十分楽しめますが、過去作を読んでからだとなお一層、登場人物の背景などが知れて面白いと思います。

あらすじ

足音が背後に迫る。かり、かり、がりっ――。真琴と野崎の結婚式。琴子は祝いに駆け付けるが誤って真琴に怪我をさせてしまう。猛省する琴子は真琴に代わって、通行人を襲い建造物を破壊すると噂の「見えない通り魔」の調査に乗り出す。不気味な足音を頼りに追跡した通り魔の姿は、余りにも巨大な化け物だった……。果たしてその正体は!? 論理的にして大胆な霊媒師・比嘉姉妹が怪異と対峙する書き下ろしの表題作ほか全5編を収録!

『ぜんしゅの跫』裏表紙

感想

とある仕事関係者の結婚式に参列することになった田原秀樹。式場のロビーで、彼は不思議な鏡を見つける。その後、披露宴に参加する田原だったが、新婦の佐川知紗を見て目を瞠る。知紗の見た目に難があったからだ。しかし彼女は特徴的な体型を逆手に取り、道化役として振る舞うことで人々を笑わせていた。ところが――。

内面を映す鏡。鏡には不思議な魔力があると昔からよく言われていますよね。

鏡に映らない、鏡を覗くと別世界に連れて行かれる、鏡に映った自分がまったく別の動きをする。

鏡にまつわる怪異をあげると枚挙にいとまがありません。それだけ怪しい魅力が詰まっているということでしょう。

知紗の容姿に最初は戸惑う田原でしたが、やがて彼女の一挙一動にまわりが笑うこと、当の本人も場の空気を優先し冗談にしてしまうさまを見て、弄っていいのだと思うようになります。

このあたりの流れが、読んでいてすごく居心地が悪かったです。

人間の自分勝手な思考回路にげんなりしていたところ、ラスト一文でとどめを刺されました。

第一作『ぼぎわんが、来る』を読み直してみたくなります。

ちなみに、物語後半に登場するたばこの匂いをまとった女性というのは、おそらく姉でしょう。

わたしの町のレイコさん

飛鳥は伯母である弥生に、レイコさんの噂話を話して聞かせる。ある男の子が変質者に攫われ、身体の一部を切り取られた。成長した男の子はとうとうおかしくなり、包丁で親を殺害、家を飛び出した、と。ところがこの噂話には元となった実際の事件が存在した。興味を持った飛鳥は恋人のとともに、調査を開始するが――。

残虐極まりない事件が生み出した怪異。

カシマレイコは身体の一部が欠損しているといいますが、まさかあの部分を失ったパターンで来るとは驚きました。

発想がすごい、そしてえぐい。

人の持つ醜さ、残酷さが克明に描かれた短編でした。

事件の被害者である怜二があまりに浮かばれず、読んでいて胸が苦しくなります。

人が邪悪だからこそ、怪異も人間に害なすようになるのではないか。そんなふうに思いました。

鬼のうみたりければ

野崎のもとを、昔の同僚、小橋希代子が訪れる。彼女は奇妙な経験をしたと語る。義母が倒れ、さらに夫である健太郎が会社をクビになったのを機に、少しずつ狂い始める生活。そんな中、数十年前にまるで神隠しにあったかのように失踪した健太郎の双子の弟・が、突然紀希代子たちの前に現れる。奇妙な共同生活を送るようになったが、輝は再び消えてしまい――。

途中までは、希代子が体験したちょっと世にも奇妙な物語かな、と少し油断していました。

ところが終盤、健太郎の告白から雰囲気が一転。一気に暗雲が立ち込めます。

終わり方は、読み手によっては解釈がわかれるかもしれません。

希代子の頭がふれてしまったのか、それとも本物の怪異がなせるわざか……。

赤い学生服の女子

古市俊介は仕事中に事故に合い、病院に運ばれた。誰も見舞いに訪れない中、古市は同室になった患者と言葉を交わす日々を送っていたが、ある日、奇妙な話を耳にする。同じ病室にいた水品が亡くなる直前、「赤い学生服の女子に会ってくる」と洩らしていたというのだ。さらにその後、入院患者の蒲原が夜中に病室を出ていく瞬間を目撃し――。

病院が舞台だとどうにも落ち着かなくなりますね。死を身近に感じられるからでしょうか。

にしても怖い。

薄暗い夜の病院。

次々に亡くなっていく同室の患者たち。

「赤い学生服の女子」の謎。

とにかく不気味。

いい感じに話がまとまったかと思いきや、ラストの1行が不安しかない。

本章は、比嘉姉妹シリーず第二作『ずうのめ人形』および第三作『などらきの首(学校は死の匂い)』を読んでから目を通すことを強くおすすめします。

ぜんしゅの跫

表題作。

最強霊能者と謳われる琴子ですら手間取る、やばい化け物が登場します。

ジャパニーズホラーと言われるような心臓が凍りつくような恐怖というよりも、化け物に襲われるパニックもの的な怖さのある物語です。

野崎&比嘉姉妹が出揃う、ファンにはたまらない一作。

琴子と真琴、怪異に対するそれぞれの態度の違いも描かれていて興味深い。

姉妹がともに協力して怪異に対処する姿が良かったです。

化け物とのバトルも必見。

ぜんしゅの目的、そして解決方法の意外さには思わず感嘆の声をあげました。とてもよく設定が練られています。

最後に

すべて解決したと思わせておいて、実は解決していないのでは? とオチをつけることで読者の不安をあおる。そういう仕掛けだとわかっていても、怖いものはやっぱり怖いです。

目を背けたくなりながらも、先が気になって読み進めずにはいられませんでした。

個人的には、『 赤い学生服の女子 』が最も印象的です。

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前作『ししりばの家』の紹介はこちら。

怪異に興味を持った方におすすめの事典。カシマレイコも掲載されています。

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