『僕が答える君の謎解き 明神凛音は間違えない』紙城境介(著)感想

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書評

推理を推理する、そんな世にも奇妙なミステリ小説が幕を開ける――。

事件のあらましを聞くだけで真実に辿り着いてしまう明神凛音と、彼女がその真実に至った過程を推理する伊呂波透矢のコンビが織りなす、青春ラブコメミステリです。

全3話が収録されています。

作者は紙城境介先生。『継母の連れ子が元カノだった』が有名ですね。

日常の謎を扱う本書ですが、通常のミステリとは一味違います。“犯人”を推理することはしません。ではいったいなにを推理するのか? 答えは冒頭にも書いた通り、探偵の“推理”を推理します。

犯人がわかった状態で、なぜその人物が犯人であるかをあとから推理していくという、普通のミステリとは逆の構造をとっているのです。いわば、数式の「答え」だけわかっている状態から「途中式」を逆算するような感じですね。

まさか、感想で犯人を明かしてもネタバレにならないミステリが出てくるとは……!

倒叙ミステリともまた違う、一風変わったテイストの謎解きを楽しめる一冊。

文章も堅苦しくなく、すらすら読み進めることができました。

羽織イオ先生のカラーイラストも素敵です。

ところで、倒叙ミステリってなに?

犯人視点で犯行が描かれるミステリのことだよ。最初から犯人が明示されているから、読者は、犯人の計画のどこに欠陥があるのか、どうして探偵は犯行を見破れたのかを推理していくことになるんだ

あらすじ

君が見つけた真実を、僕が推理で証明する。

生徒相談室の引きこもり少女・明神凛音は真実しか解らない。
どんな事件の犯人でも神様の啓示を受けたかのように解ってしまう彼女は、無意識下で推理を行うため、真実に至ることができた論理が解らないのだった。
伊呂波透矢は凛音を教室に復帰させるため、「彼女の推理」を推理する――。

本格ラブコメ×本格ミステリ、開幕――!

『僕が答える君の謎解き 明神凛音は間違えない』裏表紙

感想

意外性に富んだ本格ミステリ

可愛らしいカバーイラストからは想像できないほど、綿密に計算された謎解きが楽しめる作品でした。

“日常の謎”を解く学園ミステリという設定はさほど珍しくないですが、犯人ではなく推理を推理するという変則的なアプローチをとっているため、新鮮な気持ちで読み進められます。

丁寧なロジックの構築が見事でした。名探偵の思考過程を追体験するかのような、不思議な読み心地を味わえます。

そんな物語を彩るキャラクターたちは誰もが個性的で魅力的。特に、主人公・伊呂波透矢が推せる。

己の信念を決して曲げることなく真っ直ぐ突き進む姿や、特異な思考能力を持ってしまったが故に他人と距離を置くようになった明神凛音のため奔走する姿は見ていて痺れます。

ぶっきらぼうな態度をとったり、内申点を上げてやるというエサにつられそうになったりするという欠点も見受けられますが、それらもひっくるめて、応援したくなります。今後もぜひ挫けることなく突き進んでほしい。

誹謗中傷についてふと考えた

伊呂波透矢は「推定無罪」すなわち「疑わしきは罰せず」というスタンスをとっており、犯人っぽいから、という理由だけで相手を追い詰めることを良しとしません。その信念は筋金入りで、証拠がない中、明神が犯人に私的制裁を加えようとするのを止める場面があります。

伊呂波のとった行動は、見ようによっては、犯人(と思われる)を庇っているとも捉えることができ、正直一瞬「は?」と思いました。ただ、すぐに別の考えが頭をよぎりました。

まだ犯人だと決まったわけじゃない。それなのに、多少の罰は受けて当然だと考える。これは、昨今問題になっているバッシングと同じではないのか。このとき自分が感じた怒りこそが、バッシング行為に繋がる種火なのかもしれない。そう思いました。

裁判で有罪が確定したわけでもなく、明確な証拠が出たわけでもない。だけど、犯人に違いない。そんな個人的な思い込みが行きすぎた結果、無実かもしれない人間を誹謗中傷するという蛮行に発展する。

盲信と過信は真実から最も遠ざかる行為だ

『僕が答える君の謎解き 明神凛音は間違えない』 25頁

もう一度このセリフを読み直したとき、冷や水を浴びせられた気分になりました。

伊呂波の持つ信念を実行することが、正義を盾にして振われる暴力を止める手段なのだ。そんなことを、ふと考えました。

…………。

ちょっと堅苦しい話になってしまいましたね。

気を取り直して、以下に各話のあらすじと感想を載せていきます。

第1話:澄ちゃんさんと女子の証明

彼氏からもらった指輪を盗まれた。女子バレー部の先輩から相談を受けた伊呂波だったが、犯人は明神の指摘によりあっさり判明する。しかし、彼女の能力には致命的な欠陥があった。なぜその人物が犯人になるのか、明神自身にも説明ができないのだ。誰もが納得できる事実を明らかにするため、伊呂波は明神とともに謎解きの過程を推理することに。

事件そのものはシンプルな盗難事件です。違うのは、相談の途中で犯人が相談者の親友であるとあっさり判明してしまう点。わずか3ページの間の出来事。なんという早技でしょうか。

ただ、世の中には本書よりもはやく犯人が指摘される小説があるんですよね。ミステリは奥深い……。

閑話休題。

謎解きはかなり本格的です。何気ない描写に重要なヒントが隠されており、伊呂波が真相を明らかにするシーンでは終始驚きっぱなしでした。「え、あれがそうなるの? え、マジ?」こんな感じ。

なんだかんだ文句を言い合いながらも仲の良い伊呂波と明神たちの関係にも注目。2人の距離が物理的に縮まるシーンでは、思わずニマニマしてしまいました。うーん、これぞ青春。

第2話:チビギャルさんと乙女の逆鱗

伊呂波と明神凛音が出会ったきっかけは、机落書き事件だった。この事件以来、教室に来ることができなくなった明神。彼女は自分の話を誰も信じてくれないことに深く傷ついていた。伊呂波は明神が教室に戻る手助けをするため、いかにして明神が落書きの犯人を推理したのか推理することに決める。

もう1人のヒロイン(?)、紅ヶ峰亜衣が登場する第2話。

明神とはまるで違う性格の紅ヶ峰と、誰が相手でも同じ態度をとる伊呂波との舌鋒鋭いやり取りは痛快です。ときどき口が悪くなりすぎるのがたまに傷だけど……。

推理の一助となるのは伊呂波のつけていた日記ですが、これが細かい! 自分がわりと大雑把な性格のせいか、「こんな几帳面なやついるのかよ」と思わず突っ込んでしまいました。こんな伊呂波みたいな高校生が現実にいたら怖いなあ。

ほんの些細な手がかりから机に落書きをした犯人を絞り込むシーンでは、まるで緻密なパズルが完成していくような驚きと爽快感をおぼえました。これぞミステリの醍醐味!

明神のために立ち上がる伊呂波の勇姿に胸を打たれました。

第3話:カマトト先輩と囚われた体育倉庫

体育倉庫に人魂が現れる――そんな噂が話題にのぼった矢先、帰りに人魂らしき光を目にした伊呂波と明神。おっかなびっくり中へ入ったところ、突然、入口を閉められてしまう。何者かの手によって閉じ込められてしまったのだ。外部との連絡手段を断たれた2人は、協力して出口を見つけようとするが――。

収録された3つの事件の中で、最も衝撃度が大きいお話でした。

なかなかのビターテイスト。

すべてがひっくり返るラストは圧巻です。ずっとワクワクしながら読んでいました。

真実を明らかにすることの危うさも描かれ、これにはぐさりとやられましたね。高校生にはかなり辛辣な事実かも知れません。

主人公が成長する上でターニングポイントとなる回でした。弁護士を目指すようになった理由も語られ、ますます伊呂波がかっこよく見えるように。

印象に残った文

他人に説明できない真実など、社会を生きる上で何の役にも立たない

『僕が答える君の謎解き 明神凛音は間違えない』 159頁

最後に

斜線堂有紀先生や『medium 霊媒探偵城塚翡翠』の相沢沙呼先生がおすすめしていたのを見て存在を知った本書。

好きな作家さん方が推していたこともあり、高い期待を胸に読み始めました。

期待以上のミステリでした! 読んでよかった!

含みのあるラストだったので、次作が気になりますね。

伊呂波と明神、そして紅ヶ峰の関係がどのように変化していくのか。

今後が楽しみなシリーズです。

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