『さよなら神様』麻耶雄嵩(著)感想

書評

今回紹介する『さよなら神様』は、1行目から真犯人の名前が明かされる、奇想天外なミステリ小説です。

犯人の名を告げるのは、全知全能の神を名乗る鈴木太郎という少年。名前からしてすでに胡散臭いですが、神様であると大半の児童が認めざるを得ないほどの実力を彼は見せつけます。

そんな不気味で掴み所のない自称神様の発言の真偽を確かめるため、久遠小学校につくられた探偵団が調査に乗り出す、というのが本書のストーリーです。

全6話が収録された連作短編集なんですけど、後半の章の展開が予想外過ぎて唖然としました。

なんだこれは……なんだこの小説は……。

人智を超える神様にふさわしい、常識を打ち破る仕掛け。

これはぜひ読んでほしい!

本書の著者、麻耶雄嵩まやゆたか先生の作品を読んだのは今回が初めてなんですけど、俄然興味が湧きました。

斬新な設定が話題を呼び、本書『さよなら神様』はいくつかのタイトルを受賞しています。

2015 本格ミステリ・ベスト10 第1位
このミステリーがすごい! 2015年版 第2位
週刊文春ミステリーベスト10 2014年 第3位

あとから知ったことですが、本書は神様シリーズの2作目です。

神様の登場は共通していますが、事件は独立しているのでどちらから読んでも問題はありません。

こんな人におすすめ!

  • イヤミスが好き
  • 普通じゃないミステリが読みたい
  • 主人公に優しくない世界が好み

あらすじ

「犯人は◯◯だよ」。クラスメイトの鈴木太郎の情報は絶対に正しい。やつは神様なのだから。神様の残酷なご託宣を覆すべく、久遠小探偵団は事件の捜査に乗り出すが……。衝撃的な展開と後味の悪さでミステリ界を震撼させ、本格ミステリ大賞に輝いた超話題作。他の追随を許さぬ超絶推理の頂点がここに!

『さよなら神様』裏表紙

主な登場人物

  • 桑町淳(くわまちじゅん)……久遠小探偵団の一員。頭より手が先に出るタイプ。鈴木太郎が神様だとは信じていないが、なんらかの特殊能力を備えていることは認めている。事件が起こるたび、葛藤しながらも神様に犯人を尋ねてしまう
  • 市部始(いちべはじめ)……久遠小探偵団団長。秀才でスポーツもそこそここなし、リーダーシップに優れている。桑町曰く、顔さえ良ければ鈴木太郎と肩を並べられた
  • 鈴木太郎(すずきたろう)……自分を神様だと言う転校生。平凡な名前に反し、背が高くイケメンで頭も良くスポーツ万能。居眠り運転のトラックの暴走を予見し、大惨事を防いだ。以来、特殊な存在として一目置かれるようになる

感想

異彩を放つ先鋭的なミステリ

書店で購入する前に最初のほうのページをちらりと立ち読みしたんですが、1行目に犯人の名前が記されているのを見て思わず目を疑っちゃいました。たぶん、犯人判明までにかかる時間は世界最短です。こんな形のミステリも許されるんだ、と目から鱗の気分でしたね。もちろん、迷わずそのまま購入しました。

神様だという鈴木太郎が告げる犯人は、皆アリバイが成立しているなど一見すると犯人たりえない人物ばかり。通常であれば、疑いの目を向けることはないでしょう。ところが、神様かもしれない鈴木の発言は必ず当たる。よって、アリバイにはなんらかのトリックが介在していることになります。

「答え(犯人」から「途中式(犯行の方法)」を導き出す、異色のミステリ小説。

主人公は小学生なんですが、扱われる事件が殺人事件がほとんどということもあり、かなり殺伐とした空気が流れています。小学生らしいほんわかした描写はほとんどありません。

「小学生にしては頭が良過ぎでは?」と疑問符が浮かぶなど、ところどころリアリティに難がある点は否めませんが、それを差し引いても完成度の高いミステリです。小学生らしからぬ言動はフィクションだと割り切り、目を瞑りましょう。世の中には桑町以上の少年探偵が活躍する小説や漫画はたくさんあります。

話の展開としては、

鈴木が犯人の名前を告げる→鈴木に疑念を持つ桑町たち探偵団が調査を開始する→鈴木が犯人だと告げた人物でも犯行が可能であると結論に至る

というのが基本の流れです。

ただ、あちこちにミスリードが仕込まれており、油断していると予想だにしない事実を突きつけられ泡を食うはめになります。

神が関与したら面白くないだろ

『さよなら神様』 12頁

桑町の身に起こる、あまりに残酷な仕打ち。後半になればなるほど鈴木の悪辣さが露わになり、寒気が這い上がってきました。

とりあえず、第4話『バレンタイン昔語り』までは騙されたと思って読んでほしい。そこまでいけば、第5話以降は自然と読みたくなります。

神様の無慈悲な託宣

第1話『少年探偵団と神様』において、鈴木太郎はとある殺人事件の犯人は上林護だと断言します。

犯人だとされた上林護はなんと、久遠小探偵団のメンバーの1人、上林泰二の父親です。

主人公の桑町は、身近な人間が犯人だと指摘されて非常に苦しみます。探偵団のメンバーにすら口をつぐみ、たった1人で神様の言葉が本当かどうかを確かめようと捜査を開始。

桑町の心境を思うと胸が苦しくなります。唯一の救いは、市部という、自分を支えてくれる人間がいることでしょうか。

この流れからわかるとおり、本作はかなりブラックな内容となっています。

救いもへったくれもない。犯人が近しい人間だろうと誰であろうと、神様は平等に容赦なく真実を口にする。

小学生には残酷過ぎる仕打ちです。

しかも、第1話はまだほんの序の口に過ぎません。まだあと5話も残っていますから。

真相は藪の中

桑町たちは神様の発言が正しいと仮定したうえで、犯人のアリバイを崩しにかかります。推理はしますが、それだけです。

推理を警察に披露し、真犯人を逮捕させるといったことはしません。

そのため、神様の発言および桑町たちの推理が真実を言い当てていたのかどうか、はっきりと明らかにされないことがあります。

真犯人が逮捕されるかどうかはまさに神のみぞ知る、ということです。

このあたりの不安定さが、後味の悪さを生み出しています。この不気味な雰囲気こそが、この作品の魅力の一つとも言えるでしょう。

最後に

全知全能の神様という大胆な仕掛けが光るミステリ小説でした。

異様を愛するマニアの注目を集めるのも納得です。ミステリの常識が覆されます。この経験はほかの本ではなかなか味わえません。

パズル的な要素が強いアリバイ崩しでは、神様の託宣がなければ誰も想像しないし思いつかないであろう突拍子のない推理がなされ、毎度驚かされました。

そしてラスト。タイトルの意味がわかった瞬間のゾクゾク感が半端ない。

想像していたよりもヘビーな物語でした。


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