かつて無差別銃乱射事件が起こり閉園に追い込まれたイリュジオンランド。事件から二十年が経過した現在、廃墟となった遊園地で再び惨劇の幕が上がる。
斜線堂有紀先生が描く、ミステリ小説です。
舞台は廃墟の遊園地。所有者となった資産家の招きに応じて集まった人物は、みな腹に一物抱え、一癖も二癖もある者たちばかり。
最初の事件が起こるまでページ数がかかりますが、設定に引き込まれてそれどころではありませんでした。
見取り図がわりにイリュジオンランドのパンフレットが付録になっており、なかなか小洒落ています。
発売日に即重版が決まったようで、注目度の高さが窺い知れます。
それにしても、表紙イラストから伝わってくる廃遊園地の不気味さがなんとも言えないですね。寂れた園内にぽつねんと立ち尽くすギャニーちゃん(イリュジオンランドのキャラクター)が不気味すぎる。
- 実業之日本社
- 2021年9月刊行
あらすじ
プレオープン中に起きた銃乱射事件のため閉園に追い込まれたテーマパーク・イリュジオンランド。廃墟コレクターの資産家・十嶋庵はかつての夢の国を二十年ぶりに解き放つ。狭き門をくぐり抜け、廃遊園地へと招かれた廃墟マニアのコンビニ店員・眞上永太郎を待っていたのは、『このイリュジオンランドは、宝を見つけたものに譲る』という十嶋からの伝言だった。
『廃遊園地の殺人』
それぞれに因縁を抱えた招待客たちは宝探しをはじめるが、翌朝串刺しになった血まみれの着ぐるみが見つかる。止まらない殺人、見つからない犯人、最後に真実を見つけ出すのは……
登場人物
- 眞上永太郎(まがみえいたろう)……コンビニのアルバイト店員。廃墟マニアでブログを運営している。鋭い洞察力と優れた運動神経の持ち主
- 藍郷灯至(あいざわともし)……廃墟探偵シリーズを手がける小説家。ペンネームは時任古美
- 常察凛奈(つねみりんな)……廃墟好きのOL
- 主道延(すどうすすむ)……元イリュジオンランド経営陣。上から目線。
- 渉島恵(しょうじまめぐみ)……元イリュジオンランド渉外担当
- 売野海花(うりのうみか)……元イリュジオンランド従業員。売店担当
- 成家友哉(なるいえゆうや)……元イリュジオンランド従業員。ミラーハウス担当。
- 編河陽太(あむかわようた)……『月刊廃墟』の編集長
- 鵜走淳也(うばしりじゅんや)……元イリュジオンランド従業員(ジェットコースター担当)だった父を持つ。父の代理で参加
- 佐義雨緋彩(さぎあめひいろ)……十嶋財団から派遣された十嶋庵の代理
- 籤付晴乃(くじつきはるの)……イリュジオンランド銃乱射事件の犯人
- 十嶋庵(としまいおり)……いくつもの廃墟を所有する資産家。イリュジオンランドへ眞上たちを招待する
感想
廃遊園地という魅力的な作品舞台
まずなによりも、廃墟となった遊園地が事件の舞台というのが良い。当時の建物を残したまま風化し、植物に覆われ、外界から切り離されてしまったかのような不思議な空間。物言わぬ建造物を見上げれば、想起されるのはかつてそこにあった人々の営み。普段生活している場所とはまったく違う雰囲気に包まれた世界であり、妖しい魅力をたたえています。
しかも、二十年前に銃乱射事件が起きてしまったから閉園に追い込まれた、とかなりの曰くつき物件。
これはもう、絶対何か裏があるに違いない! ということで、設定を知った段階から期待が膨らんでいました。
そんな廃遊園地に集められた眞上たち9人の客人。招待主は、廃墟コレクターの資産家、十嶋庵です。
イリュジオンランドを偲ぶ会かと思いきや、十嶋の代理人・佐義雨が告げてきたのは、『このイリュジオンランドは、宝を見つけたものに譲る』という伝言でした。
突如始まる、宝探しゲーム。
眞上を除く全員が宝探しに熱を出す様子は、招待客たちには何らかの秘密があることを匂わせています。
廃墟の持つ独特の怪しさと相まって、ページをめくるごとに膨らむ、何かが起こるという予感。そしてついに、最初の犠牲者が出てしまいます。
不審な行動をとる招待客たち、ギャニーちゃんの不気味な影、クローズドサークルと化した遊園地、事件の背後に散らつくイリュジオンランド建設を巡る衝突。
様々な思惑が廃墟で絡み合う展開から目が離せませんでした。
遊園地ならではのギミック
ミラーハウス、ミステリーゾーン、ジェットコースター、コーヒーカップ、観覧車……本来は来園した人々を楽しませるはずのアトラクション。しかし本作では、そんな夢の世界の装置が殺人の道具として利用されます。
遊園地ならではのギミックを用いたトリックが次々と炸裂し、驚きの連続です。視覚的にもインパクトが大きく、映像化したらかなり見応えがありそうだなと思いました。
廃遊園地という舞台の特殊性ばかりに目が行きがちですが、ミステリとしての謎解きもかなり充実しています。
描写の中にさらりと紛れ込んだ真相究明の突破口となる手がかり。登場人物の何気ないセリフの中に潜んだ矛盾点。
すべてのヒントが揃ったと思われる段階で最初に戻ってパラパラ見返しましたが、自力で犯人は見つけられず、泣く泣く解決編へ。
あらゆる情報がカチリとはまり、一つの巨大な真実が明らかになるシーンは圧巻でした。
最後に
本書は、失われた故郷にまつわる物語でもあります。思わずノスタルジックな気持ちに。静かな余韻の残る読後感でした。
眞上のキャラクターがいいですね。非常時の対応力の高さをほかの人に突っ込まれるたび、「コンビニのバイトで培ったから」という理由を返すところが面白い。万能すぎる、コンビニのバイト。
推理の果てにある、あの終盤のシーンは胸に沁み入るものがありました。二十年前の事件からずっと止まっていた時が動き出す、そんなうら寂しさ漂う描写に、えも言われぬ感情が湧き起こりました。
濃密な読書体験のできる一冊。
眞上の廃墟を巡る旅の続きもぜひ読みたい。
斜線堂有紀先生が描く特殊設定ミステリ『楽園とは探偵の不在なり』もおすすめです。
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