『護られなかった者たちへ』中山七里(著)感想

当サイトはプロモーションを含みます
書評

東北大震災から復興しつつある仙台を舞台に、生活保護をテーマに扱った物語です。

テーマがテーマなだけに、読んでいる最中、幾度となく心にずしりと重いものがのしかかってきました。自分に余裕のあるときに読むべきタイプの本でしょう。

本書では、格差が拡大するいまの日本の問題点を浮き彫りにしています

どちらかというと、ミステリーよりも社会問題に主軸が置かれています。

弱者を救うためのセーフティーネットである福祉が正しく機能しないとき、いったいなにが起きるのか。福祉の現状を知るため、ぜひ多くの方に読んでもらいたい作品です。

本作を通していくつも考えさせられることがありました。感想と一緒に綴っていきたいと思います。

あらすじ

仙台市で他殺体が発見された。拘束したまま飢え苦しませ、餓死させるという残酷な殺害方法から、担当刑事の笘篠は怨恨の線で捜査する。しかし被害者は人から恨まれるとは思えない聖人のような人物で、容疑者は一向に浮かばずにいた。捜査が暗礁に乗り上げるなか、二体目の餓死死体が発見される。一方、事件の数日前に出所した模範囚の利根は、過去に起きたある出来事の関係者を探っていた――。

裏表紙あらすじより

感想

聖人や人格者と呼ばれる人間たちが、なぜ餓死という残酷な方法で殺されたのか。

真っ先に興味を引かれたのがこの部分でした。

最初に殺されたのが社会保健事務所職員だったことから、事件の背景に貧困や福祉が絡むだろうことはすぐに予想がつきます。読みはあたり、事件の背景に生活保護が関わっていることが早々に判明します。

本作では、生活保護に頼らざるを得ない困窮した人々が多く登場します。満足した暮らしを送れず、ぎりぎりの状態に置かれた人々の描写は、活字を追うだけでも辛いものがありました。

塾に通わせるために生活保護費とは別の収入を得ていた母親のシーンでは、やりきれない思いで胸がいっぱいになりました。

貧しい親の子どもと裕福な親の子ども、両者に学力や経験の差が生じるのは容易に想像がつきます。勉強ができなくても、国立大学に進まなくても、成功する人間がいることは事実です。ですがそれはほんの一握り。そもそも選択肢が狭められている時点で、れっきとした格差が存在します。

学ぶ機会を損なわれた子どもは十分な給料をもらえる仕事にありつけず、貧しいまま。大人になった彼らが子どもを産んでも、お金がないから十分な教育を子どもに受けさせられない。

貧困は連鎖する。しかし、いまの日本には負の連鎖を断ち切るだけの制度がない。貧困とは、一度はまったら抜け出せない底なし沼のようだと思いました

僕はいま衣食住に困っていません。それがどれだけ恵まれたことか、普段の生活の中で認識する機会はあまり多くありません。幸運である事実を突きつけられるのは、こうした貧困を題材に扱った本を読んだときです。

以前読んだ『性風俗シングルマザー』という本でも、生活を維持するために性風俗に走らなければならない女性たちの現状を目の当たりにし、愕然としました。風俗が生きるためのセーフティーネットとなる。はたしてこれが先進国と言われた日本の今の姿なのかと、にわかには信じられませんでした。

貧困は決して自分と無縁ではありません。

真面目に働いていた人でさえ、なにかの拍子に困窮してしまう。仕事を辞めてしまった自分が行きつく未来を垣間見たようで、本書を読んでいる最中は不安が頭からずっと離れませんでした。

小説の中では、生活保護の決定に関与する市役所職員も数多く登場します。真摯に住民に向き合おうとする職員もいる一方、予算不足を盾に突き放す者もいる。生活保護が必要なほど切羽詰まっている人だとわかっていながら国の命令に従いその人の申請を却下する、もし本当にこんなことが起こっていたとしたらと思うと、ぞっとします。

もちろん、現実にこんな職員がいるとは思えませんが(思いたくありません)。

本書の中には、ほかにも驚くべき記述があります。

とある場面で、北九州市の話が出てきます。

北九州市では2007年、生活保護を受給していた男性が「おにぎり食べたい」と書き残して餓死した事件がありました。ところがその北九州市は、事件の起きる前に、全国の福祉保健事務所所長が集められた会議で厚労省が生活保護利用率が低いとして優秀だと評価した自治体だったのです。

餓死者を出した自治体を、国が優秀だと評価した。昔のこととはいえ、こんな出来事があったのかと驚きを隠せません。

いったい社会福祉とはなんなのか。誰のために存在しているのか。改めて考えさせられました。

「護られなかった者たちへ」というタイトルの持つ意味にも、胸を深く抉られます。

社会派小説として、重すぎるほどの読み応えのあった作品です。

ミステリーとしての感想

本作は、ミステリー要素は少なめという印象を受けました。ミステリーをある程度読まれた方であれば、真相にたどり着くのはそれほど難しくないと思います。

読み進めながら、切れ者である笘篠刑事が真相に気づけなかったのかという疑問も残りました。都合よく解釈するならば、一連の事件の背景を知り、犯人にある種の共感をおぼえてしまったせいで判断が鈍ってしまったということでしょうか。

とはいえ、犯人がなぜ犯行に及んだのか、その背景が描かれた部分は非常に残酷であるものの、読み手を惹きつける力があります。理不尽すぎる出来事に、深く心に突き刺さることは必至でしょう。

小説だからこそできる体験

小説は自分の知らない世界を知ることのできる最も手軽な媒体の一つだと思います。

もちろん小説はフィクションですから、実体とは多少食い違っている部分もあるでしょう。ですが、なにかを知ろうとするきかけにはなるはずです。

いつかは自分が当事者になるかもしれない。そうなったとき、無知ゆえに行動を起こせなくなるような状況は避けたい。

本書を読んで、ますます福祉や貧困について知っていきたいと思いました。

コメント

タイトルとURLをコピーしました