『ケーキの切れない非行少年たち』宮口幸治(著)感想

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書評

あらすじ

児童精神科医である筆者は、多くの非行少年たちと出会う中で、「反省以前の子ども」が沢山いるという事実に気づく。少年院には、認知力が弱く、「ケーキを等分に切る」ことすら出来ない非行少年が大勢いたが、問題の根深さは普通の学校でも同じなのだ。人口の十数%いるとされる「境界知能」の人々に焦点を当て、困っている彼らを学校・社会生活で困らないように導く超実践的なメソッドを公開する。

「BOOK」データベースより

感想

歪んだ認識

自分がこれまでに出来てきたことは、ついつい常識だと思ってしまいがちです。文字を読めることは当たり前。四則演算はできて当たり前。だからこそ、文章が読めない、 簡単な計算問題が解けない子どもを前にすると、なんでこんなこともわからないんだと思ってしまうのでしょう。

本書では、そのような思い込みに警鐘を鳴らします。

ニュースを見ていると、どうしてこんなことをしでかしたんだろう、と不思議に思うような事件が目に飛び込んできます。その根底にあるのは、歪んだ認識です。

「見る力」「聞く力」が弱いせいで、相手の言動を間違って認識してしまう。誰かが独り言をつぶやいているのを目にし、自分の悪口を言っているのだと思い込む。あるいは、目先のことばかりしか考えられず、この行動を起こしたらその結果どうなるのかということが予想できない。

筆者は、このような認識する力、想像する力の弱さが、少年の非行や犯罪に繋がるのだと指摘しています。

ケーキを切れない

タイトルに書かれている通り、本書の中には、ケーキの切れない少年が登場します。

丸いケーキを、三人が平等に食べられるように切る。

この問いに答えられない中学生や高校生がいることに、自分は衝撃を受けました。

自分の常識では、そこまで難しいことではないように思います。しかし、なんらかの理由で認識する力や考える力が弱いと、世間で一般的に求められている水準のことを行うのも困難になってしまいます。

彼らは、勉強の土台となる部分でつまづいてしまっている。そんな子供たちに、漢字の書取りや計算ドリルを闇雲にやらせてもなんの解決にもならないどころか、事態を悪化させるだけだと本書では述べられています。

目からうろこでした。

自分がどれだけ物事を知らなさすぎるのか、思い知らされました。

反省しないのではなく、反省できない

犯罪は決して許されることではありません。しかし、少年少女たちが非行に走ってしまうのを止められないのは、大人たちにも責任の一端があるように思います。

非行少年たちは、反省しないのではなく、自分の行動を客観的に正しく認識できないために、反省できない。

アダルトビデオを見て、強姦は相手も喜んでいるんだ、と間違った認識をして、性犯罪に及んだ少年がいます。

過激な描写のアニメなどが犯罪を増やしているといった意見を多く見ますが、きちんと認識する力、感情をコントロールする力が備わっていれば、そんなことは起こらないでしょう。

子どもに悪影響を与える表現を控えたところで、根本的な解決には繋がるとは思えません。大切なのは、漢字を書く、計算をする以前の、書く力や見る力、聞く力をきちんと養っていくことだと思います。もし仮に表現が規制されたとしても、そういった力がきちんと身についていなければ、犯罪が減ることはないでしょう。

子どもたちのサインに気がつく

子どもたちはサインを発しています。周囲の大人は、家で、あるいは小学校で、彼らが発しているサインをきちんと汲み取り適切な支援を行うことが大切です。

人手不足の現場ではなかなか困難なことかもしれません。しかし、今後はより一層、そういった面の充実さが求められます。

認識する力を十分につけさせることが、少年の更生、さらには社会全体の犯罪の縮小に繋がるでしょう。

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