『置き去りのふたり』砂川雨路(著)感想

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書評

「大好きだった彼が死んだ。私を恨んでいるという、遺書を残して――」

そんな帯の文言に興味が引かれ、本書を購入しました。カバーイラストは綺麗ですが、どことなく儚げな感じですね。

作者は砂川雨路先生。

最愛の人はなぜ死んだのか。遺書に書かれた恨んでいるというのは本心なのか。

そんな疑問から始まる物語は、切ないラストを迎えます。

あらすじを読むとちょっとミステリっぽい感じもしますが、ミステリというよりは、空人という人物の掘り下げと、残されたみちかと太一が前を向けるようになるまでの道のりに焦点を当てたヒューマンドラマという印象が強い作品でした。

あらすじ

みちかと太一が大学で出会った空人は、明るく誰からも好かれる人気者だった。二人は空人に密かに恋心を抱いていた。しかし卒業から一年後、空人が死んだ。心中だった。さらに空人の胃から心中相手の小指が発見され、事件はマスコミにも大きく報道された。現実感のない事態を前にし、いまだ彼の死を受け入れられないみちかと太一。そんな中、二人のもとに手紙が届く。手紙には空人の字で「俺はふたりをいつまでも恨んでいるよ」と書かれていて――。最愛の人の死と、悲しすぎるメッセージ。彼はなぜ、死を選んだのか。置き去りにされた二人が紡ぐ、喪失と再生の物語。

『置き去りのふたり』裏表紙

主な登場人物

  • 香野みちか(こうのみちか)……実家暮らし。現在はファミレスでアルバイトをしている。ふたつ上の姉がいる。姉の出産を機に、両親の期待が自分に移り始めたことを感じ取り、鬱陶しく思う。空人が好きだった
  • 松下太一(まつしたたいち)……大学院生。元空手家。バイセクシャル。空人が好きだった
  • 三木空人(みきそらと)……複合企業の営業一課に勤務。外資系企業役員の父親とセレクトショップ経営の母親を持つ。端正な顔立ちをしている。恋人であるアンの小指を飲み込んだ状態で遺体で発見される
  • 三木陸(みきりく)……空人の弟。大学生四年生
  • 名和アン(なわあん)……空人の恋人。アパレルメーカー勤務。妹がいる

感想

物語は、恋人との心中により命を絶った空人から、みちかと太一宛に遺書が届くところから動き出します。

三人は大学一年生のとき、スポーツサークルの飲み会で知り合いました。その後、意気投合。強固な絆で結ばれるように。

やがてみちかと太一は、空人を友達以上の存在として認識し始め、恋しいと思うようになります。しかしそれは叶わない恋。みちかは親友ポジションを壊したくないゆえに、太一は同性であるゆえに、一線を越えることをずっと躊躇ってきました。そうこうしているうちに、空人は名和アンという別の女性と付き合ってしまいます。

みちかと太一宛の遺書には、「俺はふたりをいつまでも恨んでいるよ」というメッセージが書いてありました。

親友だと思っていた相手から告げられた、予想だにしない告白。

なぜ空人はみちかたちを恨んでいるのか。いつも見せていた空人の笑顔は偽物だったのか。

戸惑うみちかと太一は、遺書の真意を確かめるため、手がかりを得ようと行動を開始します。

テニスサークルを辞めさせられた男。

空人が勤めていた会社の同僚。

恋人だった名和アンの妹。

さまざまな人たちから話を聞くうちに、二人は、自分たちの知らない一面が空人にあったことを知ります。

次第に明かされていく空人の別の顔

明るくて爽やかな好青年とは違う一面があることを知り、みちかと太一は動揺を隠せません。

知らないままでいた自分たちのことを、本当に親友と言えるのだろうかと責めます。

膨らんでいく疑念。

みちかと太一の心理描写がとても繊細に描かれていて、読んでいて胸が苦しくなりました。

死んでから初めて知る、親友の秘密。

親友ってなんだろう、繋がりってなんだろう。読み進めながらそんなことを考えました。

長く一緒にいるからといって、相手のすべてを知っているわけではありません。

自分も高校や大学の同級生といまでも連絡を取り合いますが、彼らが職場でどのように振る舞っているのかはまるで知りません。きっとプライベートで見せる顔と仕事で見せる顔は違っていることでしょう。

人は誰しもが、いくつもの仮面をつけて生活しています。自分に隠している一面があるからといって、自分が見ている友人の姿が偽物ということにはならないはずです。どれも本物。その人が持つ顔の一つにすぎません。

空人は少し極端なところもあるように思えましたが、みちかたちを大切な親友だと思っているからこそ自分のカッコ悪い姿を見せたくないという気持ちはよく理解できました。誰だって幻滅されたくない。けれど、無理をすればするほどどこかで歪みが生じてきてしまう。

友人なんだからもっと自分を曝け出してくれてもよかったのに、と思うみちかや太一の気持ちもすごく共感できました。

みちかや太一が思い出す三人で過ごした記憶は、そのどれもうらやましいぐらいに眩しい。

指切りで結ばれた三人の絆。ほかの人の入る隙がないほどの、特別な関係。

だからこそ、空人の選んだ道が悲しい。

もっとほかに選択肢があったのではないか、そう思わずにはいられません。

印象に残った文

夢が見つからないとか、将来何やったらいいかわかんない時期ってあるじゃない。でも、考えてないわけじゃない。模索中ってやつ

『置き去りのふたり』 150頁

急にいなくなられたら、できなかったことばかり数えてしまいますね

『置き去りのふたり』 192頁

最後に

人と繋がることは難しい。

良かれと思ってしたことが、相手を不快にさせてしまうこともあります。なにが相手の重荷になるかわからない。大切な人との絆が裏目に出ることだってある。

それでも、人は人との繋がりを求めずにはいられません。

相手は何を考えているのか。何を望んでいるのか。相手を理解するには、自分から相手を理解しようとすることが必要なんだと改めて思いました。

辛く苦しくも希望の見える物語でした。

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