『15歳のテロリスト』松村涼哉(著)感想

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書評

本日紹介するのは、松村涼哉さんの『15歳のテロリスト』です。

「すべて、吹き飛んでしまえ」突然の犯行予告のあとに起きた新宿駅爆破事件。容疑者は渡辺篤人。たった15歳の少年の犯行は、世間を震撼させた。少年犯罪を追う記者・安藤は、渡辺篤人を知っていた。かつて少年犯罪被害者の会で出会った孤独な少年。何が、彼を凶行に駆り立てたのか?進展しない捜査を傍目に、安藤は、行方をくらませた少年の足取りを追う。事件の裏に隠された驚愕の真実に安藤が辿り着いたとき、15歳のテロリストの最後の闘いが始まろうとしていた―。

「BOOK」データベースより

本書の著者は『ただ、それだけでよかったんです』で 第22回電撃小説大賞<大賞>を受賞された方です。10代の抱える様々な想いを精緻に書き綴ったデビュー作を読み感銘を受け、その同じ著者だということで、購入しました。

あらすじ

本書の語り手となるのは、2人の人物です。

1人は、少年犯罪を追う雑誌記者、安藤

もう1人は、新宿駅を爆破すると犯行予告をネットにアップロードした15歳の少年、渡辺篤人

安藤は、かつて恋人を少年によって殺された過去を持ちます。その犯人となった少年は、長期処遇の少年院送致という被害者の関係者にとっては納得しかねる罰しか与えられません。このことがきっかけとなり、安藤は少年犯罪を追うようになります。

一方の渡辺篤人少年は、両親をはやくに亡くし、妹と一緒に祖母のもとで育てられていました。ところが、その妹と祖母を火事で亡くし、彼は児童養護施設に預けらます。この火事というのが、とある少年のたばこの火の不始末によって生じたものでした。

物語は、動画投稿サイトに「新宿駅に爆弾を仕掛けた」という犯行予告動画がアップロードされたことから始まります。そして実際に、爆発が起こってしまいます。

犯人と目される渡辺篤人少年が、いったいなぜこのような事件を起こしたのか。

この事件の担当となった安藤は、 少年法の厳罰化賛成派の国会議員、渡辺篤人の家族を殺した火事の犯人である少年たちと接触をしていき、今回の新宿駅爆破テロに隠された動機に迫っていきます。

そんな一躍時の人となった渡辺篤人ですが、彼は事件を起こす前に、ひとりの少女、アズサという少女と出会っていました。彼女との出会いが、家族を殺した少年への復讐に燃えていた彼の気持ちに、変化をもたらしていくのです。

物語は、安藤の調査と、渡辺篤人の爆破事件を起こすまでの経緯が、交互に語られていきます。

時系列でいうと、安藤パートが「現在」、渡辺篤人パートが「過去」ですね。やがて最後のほうで、2つの物語が繋がります。そこで明かされるのは、読者の想像を裏切る驚愕の真実――。

新宿駅爆破テロというセンセーショナルな事件を扱っていますが、手に汗握る犯人との攻防がスリリングに描かれているわけではなく、逆に、少年たちの心の闇が淡々と綴られた内容となっています。

少年法の現実

本作の背景にあるのは、少年法です。

少年法とは、罪を犯した20歳未満の者に適用される法律です。

まだ精神的にも成長途中の少年を大人と同じように扱うのはおかしい、少年の将来を鑑み更生させる機会を与えるべきだ、という観点から成立した法律です。

しかし、この法律の内容に疑問を持つ声も多く、改正をすべきだという意見も多く上がっています。

その理由として、罪を犯した少年の人権ばかりが守られ、被害者遺族が蔑ろにされているといった点や、凶悪犯罪を起こしておきながら大した罪にも問われない点があげられています。

被害者遺族の想いと、加害者である少年の更生――片方をたてれば片方がたたない、といった単純なものでもないでしょうが、両者の均衡を保つことはなかなか難しいことだと思います。

現在、少年法の適用範囲を20歳から18歳に引き下げようとする動きがありますが、今後も多くの議論が重ねられていくことでしょう。

最後に

少年法の抱える問題に正面から向き合った作品です。

復讐は復讐しか生まない、といった言葉はよく耳にしますが、この本の登場人物たちには、まさにぴたりとあてはまる言葉でしょう。

被害者が加害者に復讐する、という単純な構図で終わらないこの物語にいろいろなことを考えさせられました。

「復讐にも、赦しにも、そこには真実が不可欠なんだ」

15歳の少年の慟哭が、世間にどのような影響を与えていくのか――。

少年法を知るきっかけとなる一冊としても、最適だと思います。

重いテーマを扱った作品ですが、一気に読み進めることができました。

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目を引くタイトルと衝撃的な出だしで一気に物語の中に引きこまれます。

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圧倒される物語です。

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