『などらきの首』澤村伊智(著)感想

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書評

澤村伊智先生が描く、比嘉姉妹シリーズ第三弾です。

本書は六つの物語がおさめられた短編集となります。

これまでの長編と比べると一話一話が短いこともあり、じわじわ追い詰められるような恐怖を感じることは少ないですが、瞬間的な怖さは強烈です。特にラストですべてがひっくり返るお話は鳥肌が立ちました。

どの短編も技巧が凝らされており、読んでいて何度も驚かされること間違いなしです!

ホラーは苦手だけどホラー小説を読んでみたい、という方におすすめ。

同シリーズ『ぼぎわんが、来る』『ずうのめ人形』のネタバレが出てくることはほぼありませんが、過去作を読んでからのほうがより楽しめます。

あらすじ

「などらきさんに首取られんぞ」祖父母の住む地域に伝わる“などらき”という化け物。刎ね落とされたその首は洞窟の底に封印され、胴体は首を求めていまだに彷徨っているという。しかし不可能な状況で、首は忽然と消えた。僕は高校の同級生の野崎とともに首消失の謎に挑むが……。野崎はじめての事件を描いた表題作にくわえ、真琴と野崎の出会いや琴子の学生時代などファン必見のエピソード満載、比嘉姉妹シリーズ初の短編集!

『などらきの首』

感想

ゴカイノカイ

梅本が所有する貸事務所のうち、なぜか五階だけ入居者に短い期間で解約されてしまう。入居者の話によると、子供の声で「痛い、痛い」と聞こえ、さらには自分の身体に痛みが走るという。壁の裏や床下を確認したが、異常は見当たらない。怪奇現象の原因を突き止めるため、梅本は“鎮め屋”に解決を依頼するが――。

ライトな短編。夜に読んでも耐えられるぐらいの、ほどよい怖さ。

怪奇現象そのものよりも、“鎮め屋”の持ってきたロウソクのほうがゾッとするかも。

物語には大きな仕掛けが施されており、すっかり騙されてしまいました。

作者の巧みな技術がきらりと光るお話です。

学校は死の匂い

市立三ツ角小学校に通う比嘉美晴は、あるとき女子児童から体育館で奇妙な声と音を聞いたとの相談を受ける。雨の日だけに現れるという謎の少女の幽霊。友人の古市とともに体育館に足を運んだ美晴が目にしたのは、キャットウォークから飛び降り自殺を図る少女の幽霊だった。

今回の主人公は、比嘉琴子の妹であり、比嘉真琴の姉である比嘉美晴です。

彼女は“本物”の怪異を求め、日々学校の怪談話の検証をしています。

いくつもの情報が有機的に組み合わさり、恐るべき真実を詳らかにする構成は見事です。

意味ありげに登場してくる人物たちがどう物語に関わっていくのか。

少女の幽霊はなぜ自殺を繰り返すのか。

最後の1ページまで気が抜けません。

居酒屋脳髄談義

行きつけの居酒屋で、課長は同じ会社の小崎、石坂、牧野晴美とともに飲んでいた。ところが、今日の晴海はどこか様子がおかしい。いつもは伏し目がちな彼女が、今日はやけに堂々としているのだ。生意気な晴海に一泡吹かせようと男三人が目論むが――。

あらゆる分野で女は男よりも劣ると信じてやまないおじさん三人衆に鉄槌が下される物語です。

ドグラ・マグラや荘子など少し小難しい話が出てきますが、様々な知識をあやつり次々と男たちを言い負かす晴海の姿には爽快感をおぼえました。

パワハラ・セクハラの見本市のような発言を繰り返す三人衆。口だけはよくまわるので、だから誰も言いまかすことができずに手をつけられなかったのだろうか、そんなことを思いました。

とても興味深い内容の談義でした。

最後のセリフが痛烈で小気味いい。

悲鳴

大学生の千草は映画同好会に頼まれて、自主映画の撮影に参加することに。撮影の舞台となるのは、とある女子大生が交際相手の男に殺され、その男も首吊り自殺を図ったという噂のある井須間山。映画の撮影中、同好会メンバーのひとりが、悲鳴を聞いたと発言。さらにその後も、奇妙な出来事が連続して起こり――。

小さな染みがじわりと広がり、やがて取り返しのつかないところまで大きくなる、そんな印象を受ける物語でした。

なんでもかんでもホラーに結びつけようとする態度への痛烈な皮肉が効いています。

りーたんことリホの正体は、過去作を読むとわかります。

ただでさえ後味の悪い物語が、正体を知ってからだとさらに不気味に感じられるようになりました。

ファインダーの向こうに

怪奇現象が起きると噂される一軒家を訪れた周防と野崎、そして明神。クローゼットの撮影中、奇怪な出来事が起こる。さらに、明神から渡された撮影データの入ったSDカードには、本来写るはずのないものが写った写真が紛れ込んでいた。真相究明のため、周防たちは霊能者と会うことに。その霊能者は、比嘉真琴と名乗った。

野崎と真琴との出会いが描かれた短編です。

真琴の強烈なキャラはこのころから健在。

疑いの目を向ける野崎の挑発をあっさりかわすなど、やっぱり本物は違いますね。

編集長をはじめとした、オカルト雑誌編集部の面々も登場。

本書の中では一番清々しく終わるお話です。

などらぎの首

表題作。

都会から離れた自然豊かな田舎町が舞台。

言い伝えに登場する本物の化け物が物語のキーとなっていることもあり、民俗学的ホラーの趣を持つお話です。

途中までは、日常の謎を楽しむ感覚で読み進められました。

なにか起こるはずだと身構えながら読み進めていましたが、予想の遥か上をいくラストに一瞬で鳥肌が立ちました。

人の悪意や幽霊とは違う、正真正銘の化け物

こういうホラーもやっぱりいいですね。ぞくぞくします。

ちなみに語り手である寺西新之助は、『ぼぎわんが、来る』でも名前だけ登場しています。結婚し、子供も二人いるそうです。

最後に

ゾッとする話、ほっこりする話、様々なタイプの怪異にまつわる物語を読むことができ、長編とはまた違った面白さがあります。

同シリーズの登場人物たちの意外な一面を見ることができるのもイイ。

どの物語も甲乙つけがたいですが、個人的には『ゴカイノカイ』と『などらきの首』が好きです。

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前作『ずうのめ人形』の紹介はこちら。

次作『などらきの首』の紹介はこちら。

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