今回は『るろうに剣心 最終章 The Beginning』の感想を書いていこうと思います。
前作までとは一変した空気感
本作は、まだ緋村剣心が人斬り抜刀斎と呼ばれていた時代の物語。
1作目から4作目(The Final)までは、剣心の武器が逆刃刀だったため、彼が人を斬るシーンはなかった(回想シーンをのぞく)。
ただ今回は得物が真剣なので、開始序盤から普通に人がばっさばっさ切られていく。
対馬藩邸にて、両手を縛られるという圧倒的不利な状況から一気に形勢を逆転させる戦闘力は圧巻である。顔を近づけてきた男の耳を噛みちぎり、その隙をついて腰にさしていた刀を口でくわえるというどこぞの海賊狩りを彷彿させる動きを瞬時にやってのけてみせた。
人斬りとして人々に恐れられていたのも納得のいくシーンだった。容赦なさすぎるし強すぎる。
そしてこの剣心、まったく笑わない。
いまでは口癖の「おろ」もない。
コミカルなシーンが皆無。強いて挙げるとすれば、奇兵隊入隊の際にオラオラ先輩の袴が見事に切られたところぐらいか。
映像自体が少し暗めとなっており、これまでの作品とは雰囲気がまるで違っていた。
今作は剣心と巴に焦点が当てられ、人間ドラマ的な面が強い。そのためか、ほかの作品よりも戦闘シーンは少なめである。
壁を走り抜けたり弾幕を避けたりするような超人じみた動きも見られず、戦い方はややリアルに近い(それでも圧倒的反射神経、運動神経を見せつけていたけど)。
相手の武器も基本刀である。
弓矢や爆弾は出てくるが、まあ見慣れたものである。
でかい鎌やら鍵爪やらガトリング砲やらが猛威を振るった前作のThe Finalまでとは大違い。
相手を金縛りにさせたり口から火を噴き出したりするような特殊能力持ちもいない。
これまでことあるごとに登場したガトリング砲は、今作では出番がなかったため、惜しくも皆勤賞とはならなかった。
総じて今作の剣心は、だいぶ人間らしい戦い方をしていたと言える。
私が命に代えても守る
今作のキーマンが、雪代巴という女性である。演じるのは有村架純さんだ。
彼女は剣心と同じく愛想がない。いつも淡々と受け答えをしている。
最初は他人行儀な二人だったが、近くで過ごすうちに心境に変化が訪れる。剣心にとって、巴はかけがえのない大切な存在となる。
The Finalで巴の置かれた立場、剣心に近づいた真の目的、そして最期を知っていたからこそ、見ているのが辛かった。というか泣いた。
剣心と巴の幸せな暮らしぶりを見て、このままずっと幸せでいてくれー、とどれだけ願ったことか。
剣心と巴が初めて出会った際に、彼女の言った言葉が印象的だ。
「あなたは本当に、血の雨を降らせるのですね」
剣心に殺されてしまった婚約者のことを思い出していたのかもしれない。
復讐のために剣心に近づいた巴。だが彼と触れ合ううちに、巴もまた、彼のことを大切に思うようになってしまう。愛情と憎悪の間で揺れ動く心。その先に待つのは悲劇のみである。
どこかで聞いたことのある名前だな
前回の記事にも書いたが、The Beginningを観た翌日に、もう一度The Finalを観賞した。
そのときに気づいたことが一つある。
縁の仲間の一人、こいつThe Beginningにも出てたんじゃね?
The Beginningにて、物語後半、江戸幕府直属の闇乃武が緋村剣心を殺そうと襲いかかる。彼らを率いるのは北村一輝さん演じる辰巳という男だ。
闇乃武に所属する刺客らは剣心の返り討ちにあいながらも、倒れる直前、森に仕掛けた爆弾を爆発させるというしぶとさを見せる。
激しい轟音は辰巳のいるお堂まで響く。その衝撃音を聞いた辰巳が、道連れ覚悟で剣心に挑んだ部下のことを想ったのか、二人の名前をつぶやいた。そのうちのひとりが、無名異という名だ。
さてThe Finalに話を移す。
雪代縁たちが東京を襲撃した際、巻町操や四乃森蒼紫と戦う、縦長の男がいた。
その男が自らを「無名異」と名乗ったように聞こえたのだ。
あれ、どこかで聞いた名前だぞ?
そう、The Biginningにおける辰巳の部下である。
最後のクレジットをガン見して確認した。やっぱり「八ツ目無名異」と書いてある。
つまり、The Beginningで人斬り抜刀斎に敗れた無名異が、その数年後、剣心への恨みから縁の仲間となり、再び剣心の前に現れたということだ。
「世の平安なくして、徳川なくして、個々の幸せなど存在しない」
そんな信念を持った辰巳と共に徳川幕府の下、幕府による平和を維持しようと暗躍していたころから一転、平和な世を破壊しようと目論んだのである。
とんでもない転職だな、おい。
それはそうと、思いがけない敵のバックグラウンドを知ることができたときは思わず気分が昂揚した。見事な伏線だった。
ちなみに一緒に行った友人に張られた伏線を見破ったことを自慢したら、「へえ」の一言ですまされてしまった。ちくしょう、もっと驚いてくれよ。
過去から現在へ
ラストで描かれていた、戊辰戦争、鳥羽・伏見の戦い。
このシーンこそが、るろうに剣心第1作目のオープニングシーンに繋がるのである。
The Biginingを見終えたあと、家で第1作目を見返した。過去が現在に繋がった瞬間、鳥肌がたった。
それにしても、佐藤健さんも江口洋介さんも十年以上経っているのにぜんぜん違和感ないな。
ところで、桂小五郎や沖田総司なんかは戊辰戦争後どうしたんだろうか。新撰組三番隊組長だけはその後も何度も出てきたけど。
村上虹郎さん演じる沖田総司と剣心との戦闘は手に汗握ったので、もっと見たかったというのが本音。
後日ホームページを見て知ったんだけど、沖田総司は肺の病を患っていたらしい。剣心との戦いの最中の吐血は、そのせいだったようだ。
おわりに
巴が素敵すぎだった。
日記にも記されていた、「私が命に代えても守る」という言葉を有言実行した彼女の強さには心を打たれた。剣心への深い愛情がこれでもかというぐらい伝わってくる。
また、緋村剣心の、新時代のために人を斬り続けるその信念の強さにも脱帽する。
逆刃刀に象徴され、1作目から語られていた「二度と人は斬らない」という剣心の誓いがいかに重いものであるかを、The Biginingを見て思い知らされた。
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