『アオハルの空と、ひとりぼっちの私たち』櫻いいよ(著)感想

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書評

櫻いいよ先生が描く、青春小説です。

カバーイラストを手掛けるのは飴村先生。引き込まれるような青空、そして屋上。まさに“アオハル”って感じですね。好きです!

本編もイラストと同様、とても爽やかな気分になれる物語でした。

あらすじ

高1の奈苗は、いつも笑顔でいるものの、心に孤独を抱えていた。ある時、とある事情でクラスメイト五人だけで三日間、授業を受けることに。一匹狼の大北くん、優等生の怜ちゃん、委員長と呼ばれる落合くん、いじめられっ子の若尾くん。いやで仕方なかったのに、気づけばその時間が大切なものになっていて――。無限に積み重なる空の下、五人のひとりぼっちたちの物語。

『アオハルの空と、ひとりぼっちの私たち』

主な登場人物

  • 青谷奈苗……二ヶ月前、母の生まれ故郷に引っ越してきた転入生。これまでに親の都合で二回転校を経験
  • 大北望……二股かけるし喧嘩っ早いしと、いい噂を聞かないイケメン。クラスメイトから距離を置かれている
  • 落合宗太郎……馴れ馴れしくお節介な性格から、委員長とあだ名されている
  • 若尾……おどおどした態度のせいか、クラスメイトから嫌がらせを受けている
  • 平岡怜……厳しい両親のもとで暮らす優等生

感想

鮮やかな青春のひととき

最高の一言です。

すごく瑞々しい物語。

これまで接点の薄かった五人が、ふとした出来事をきっかけに距離を縮めていく。

やがて五人で過ごす時間が、彼女たちにとってはかけがえのないものに変わっていく。

そんな青春のきらめきが繊細な描写で紡がれています。

一緒に同じ時間を過ごし、時にはぶつかり合い、時には支え合う。そうして互いに相手のことを知っていく奈苗たち五人の姿が、とても眩しく感じられました。

こんな青春を送りたかったな。読み終えて真っ先にそう思いました。

ついつい自分の高校時代のことを思い出し、懐かしい気持ちにもなります。

各々が抱える問題が明らかになるなど少し暗めのシーンはありますが、全体的に見ると明るく前向きなお話です。

変化するひとりぼっちたち

体育祭を終えた六月のある日、ひょんなことから三日間、たった五人で授業を受けることになった奈苗たち。おまけに一緒に過ごすことになったほかの四人は、これまでの二ヶ月間ほとんどしゃべったことがない人たちばかり。

そのため、奈苗は最初、これから始まる三日間のことを思いひどく憂鬱な気分になります。

意を決して怜に昼ごはんを一緒に食べようと話しかけるも、けんもほろろに断られてしまいます。

もやもやした気分を変えようと屋上に上がった奈苗でしたが、そこにはクラスの問題児・大北の姿が。

言葉を交わすも、どこか小馬鹿にするような大北の態度に悪感情を抱きます。

さらに、女子生徒をめぐって先輩たちと殴り合う大北の姿を目にし、やはり噂どおりの男だったのだと彼への苦手意識を強める奈苗。

けれども二日目、三日目と日を重ねるごとに、奈苗はこれまで知らなかった四人の素顔を知ることになります。

そして大北に対する印象にも、次第に変化が生じていきます。

五人が屋上でのんびり過ごす様子は、見ていてとても心地よい。

少し前までは考えられなかった関係が、いつの間にか自然なものとして存在している。人と人との繋がりってすごく不思議ですね。

噂はどこが本当で、どこが嘘なのか

奈苗は大北と話すうちに、大北にまつわる噂は誤解ではないのかと思うようになります。けれども当の本人は、その誤解を解くことを諦めている様子。

そばにいたって無意味な関係もある、大北はそう言い切ります。

噂を信じて、他人を色眼鏡で見てしまう。自分の目で確かめることをしない。

ページをめくりながら、大北に対してクラスメイトたちがしでかしたことを、自分も知らず知らずのうちにやっているかもしれない、そう気付かされました。

他人を知るには時間も手間もかかります。噂を鵜呑みにして噂どおりの人間だと思い込むほうが、はるかに楽で手早くすみます。

SNSが発達し、炎上と呼ばれる現象が頻繁に起こるようになりました。結局それも、「多数の人間がそう言ってるから正しいのだろう」と真偽を確かめずに盲目的に信じることが原因なのではないだろうか。

小説の中で、落合は大北と仲良くしようと試み、若尾へのいじめを止めさせようと動いています。多数派に流されることをよしとせず、たとえきれいごとであってもみんなが仲良くなれると信じている。落合のひたむきさには、じんと胸を打たれました。

SNSのように相手と物理的な距離があると難しいですが、少なくとも普段会える距離にいる相手については自分の目や耳で判断するようにしていきたい。そんなことを思いました。

印象に残った文

行動しようとした、それだけでもいいんじゃないかな。その積み重ねがいつか、向き合う強さを育ててくれるはずだと信じて。

『アオハルの空と、ひとりぼっちの私たち』 232頁

最後に

言わなければわからないこともある。行動しなければ変わらないこともある。

読み終えたとき、心がじんわりと温かくなりました。

素敵な物語でした。

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