『予言の島』澤村伊智(著)感想

書評

島で六人の人間が死ぬ――。とある霊能者が予言が残した島で連鎖する不可解な死。これは本当に呪いなのか?

身の毛もよだつ真相が待ち受ける、ホラーミステリ小説です!

澤村伊智先生の著作のうち、「比嘉姉妹シリーズ」以外の本を読んだのは本書が初めて。

文庫本帯に再読率200%と書いてあり、最初は「大袈裟なあおり文句だな」と正直思いましたが、読み終わったところで納得しました。

なるほど、確かにこれはもう一度最初から読み直して確かめたくなる……!

霊能者の残した不気味な予言、島を覆う怨霊の影、なにかを隠している島民たち。

土俗的、民俗学的ホラーであり、周到にいくつもの仕掛けが張り巡らされたミステリでもある本書。連鎖する死は人の手によるものか、それとも怨霊の仕業なのか。先が気になり過ぎて、深夜まで読み耽ってしまいました。

こんな人におすすめ!

  • ミステリもホラーも楽しみたい
  • 次は誰が狙われるのかわからないスリル感を味わいたい
  • ホラーに触れてみたいけど怖すぎるのはムリ
作品情報
  • 出版社:KADOKAWA
  • レーベル:角川ホラー文庫
  • 単行本発売日:2019年3月15日
  • 文庫本発売日:2021年6月15日
  • 著者:澤村伊智

あらすじ

瀬戸内海の霧久井島は、かつて一世を風靡した霊能者・宇津木幽子が最後の予言を残した場所。二十年後《霊魂六つが冥府へ墜つる》という。天宮淳は幼馴染たちと興味本位で島を訪れるが、旅館は「ヒキタの怨霊が下りてくる」という意味不明な理由でキャンセルされていた。そして翌朝、滞在客の一人が遺体で見つかる。しかしこれは悲劇の序章に過ぎなかった……。全ての謎が解けた時、あなたは必ず絶叫する。傑作ホラーミステリ!

『予言の島』裏表紙

主な登場人物

  • 天宮淳(あまみやじゅん)……同級生の宗作や春夫らとともに霧久井島を訪れる
  • 大原宗作(おおはらそうさく)……上京後、上司のパワハラに苦しめられ自殺未遂を起こす。現在は兵庫県の実家に戻ってきている。
  • 岬春夫(みさきはるお)……精神を病んだ宗作を元気付けるため、奇妙な予言が残る霧久井島への旅行を提案する
  • 宇津木幽子(うつぎゆうこ)……霊能者。故人。二十二年前、霧久井島を訪れた際に原因不明の体調不良に陥る。その後奇妙な予言を残して亡くなる

感想

土俗的ホラーと現代に蔓延る闇を描いた怪作

物語の序盤に提示される、霊能者・宇津木幽子の残した予言。

《霊魂六つが冥府へ墜つる》

つまり、六人までが死ぬ可能性があるということです。

外界と隔絶された集落、他所者に排他的な島民たち、くろむしと呼ばれる不気味な黒い置物。これでもかというぐらい土俗的ホラーの舞台が整えられ、おまけに次は誰が殺されるのかという不安も加わって、終始ドキドキしっぱなしでした。

先がまったく読めず、だからこそどう決着がつくのか確かめたくなる。読者を飽きさせない息も詰まるような怒涛の展開が続き、おかげで休憩をとることも忘れて物語に没頭してしまいました。

宇津木幽子を心酔する女性や共依存の親子など、登場するキャラクターは個性的であると同時に、どこかおかしな雰囲気が感じられる人物ばかり。まあ、予言が指定する日にわざわざ島を訪れるほどですから、一癖も二癖もあって当然と言えば当然だけれども。誰も彼もが怪しさ満点で、それがよりいっそう物語を不気味に彩ります。

本書は角川ホラー文庫から出ていますが、ホラー色よりもミステリ色が強い作品。

ヒキタの怨霊や霊能者の予言もそうですが、それに振り回されている人間たちも、なにをしでかすかわからない危うさを秘めており怖い。

深澤先生は、ホラーの中に現代社会に見られる暗部を描くことに長けていますが、その手腕は本作でもいかんなく発揮されています。

宗作が受けたパワハラ問題は、労働環境の改善に注目が集まる現代では、誰もが共感し得る内容でしょう。ホラーの世界に無理なく描写されており、うまいなあと思わずにはいられません。

もう一つの問題は本作のネタバレに触れるので明言は避けますが、怪異にも負けず劣らずゾッとしました。

閉ざされた田舎の村ではなにが起きても許されるのか?

本書には、登場人物の一人が、観光客が殺されたのは霧久井島の禁忌を破ったからだと推論を述べるシーンがあります。狭い共同体の中に根付いた習慣を守るためなら、現代の倫理観ではとうてい考えられないような蛮行に走ることも起こり得るのだ、と。

独自の土俗的習慣や民間伝承が残る人里離れた山奥の村という舞台は、ホラー小説ではよく見られる設定です。因習を守ために村を訪れた主人公たちに危害を加えるというのも、一種のお約束とも言える展開でしょう。

本書では、そんな田舎への勝手なイメージ、過剰な期待に一石を投じています。

地方を何だと思っているのか。東京出身者にとって地方は秘境と同義なのか。

『予言の島』 189頁

なかなか皮肉が効いており、非常に興味を惹かれる内容でした。

山村だから“なんでもあり”のホラーゲームや映画を楽しんでいる身としては、耳が痛い。

他人事ではない「呪い」の存在

「呪い」と聞くと、あくまで創作の中で楽しむもののように捉えがちです。けれども、実は意外と身近なところにも呪いは潜んでいるのだということを痛感させられました。

たとえば、テレビや雑誌でよく見かける星座占い。自分の星座が最下位だと目にしてから不運が起こると、その不運を無意識のうちに占いと結びつけてしまう。これもある意味「呪い」と言えるのではないでしょうか?

大昔、嵐や雷を神々の怒りだと恐れていたのも、未知の脅威をなんとか自分たちが納得できる形で理解しようとした結果です。「神々がお怒りになった、だから天災が起こるのだ」と。

自然現象のメカニズムが解明された現代においては、当時の人々の考えを否定するのは容易いことです。けれども、そんな現代人もまた、論理的に説明できない現象を前にしては、「呪い」や「祟り」に原因を求めようとしてしまいます。人は原因がわからないことをひどく恐れる。だから、無理矢理にでも現象と原因を結びつけようとしてしまう。

物語のきっかけとなった宇津木幽子の予言もまた、多くの人々に呪いをかけます。

予言がなければ淳たち観光客がわざわざ島にやってこようなどと思わなかったでしょうし、惨劇も起こらなかったでしょう。

「呪い」に関しては、もう一つ興味深い事例が出てきます。

天宮淳の幼馴染・大原宗作は、会社の上司による度重なる暴言により心身に異常をきたしてしまいます。会社を辞めて郷里に戻ったいまでも、上司の言葉をたびたび思い出しては苦しむ生活を送る毎日。

何度も罵倒された結果、自分は駄目な人間だと思い込むようになってしまったのです。

他人が何気なく放った一言が脳裏にこびりつき、後々まで引きずるようになったという経験は、誰もが一度や二度あるのではないでしょうか?

言葉は呪い。よく耳にするフレーズですが、その恐ろしさを改めて実感しました。

「言霊」という単語もある通り、言葉は人を縛り狂わせる、そんな「呪い」となる一面もあるということを、肝に銘じておかなければならないと思いました。

印象に残った文

……変だ、おかしいと分かってても切り捨てられない言葉。振り払いたいのに振り払えない、目に見えない力。それが呪いよ。

『予言の島』 269頁

最後に

『予言の島』は、これまでに読んできた澤村先生の著作の中で最も衝撃度の大きかった作品でした。

すべての手がかりが読者に示されなければならないミステリ小説の鉄則を通り、本書はフェアな内容です。

とはいえ、冷静さを取り戻してから振り返ると、「いやいや、成り立つかッ、こんな仕掛けッ」と突っ込みたくなるのもまた事実。いや、すっかり騙されただけの負け犬の遠吠えですね、はい。

澤村先生の筆力の高さに、ただただ脱帽するばかりです。

エンターテイメント性に優れた小説。まだ未読の方はぜひ読んでみてください!

それにしても、ホラー小説ってほかのジャンルより構成がテクニカルすぎじゃない? こういうのが普通なの?

澤村伊智先生の描く「比嘉姉妹シリーズ」もおすすめです。


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