『夏へのトンネル、さよならの出口』八目迷(著)感想

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書評

八目迷氏のデビュー作品です。

第13回小学館ライトノベル大賞において、ガガガ賞と審査員特別賞のW受賞をしました。

先日読んだ同作者の作品『ミモザの告白』が面白かったので、購入を決意。

まず鮮やかな青を基調とした表紙のイラストから引き込まれますね。青い海に青い空。くっか氏の透明感のあるイラスト、大好きです! 小説を読み終えてからもう一度見ると、がらりと印象が変わるのもまたイイ。

ちょうど夏ということで、季節的にもぴったり。夏に読みたいボーイミーツガール。

青春小説に、SF(サイエンスフィクション)要素が加わった物語。1巻完結型のライトノベルなので、とっつきやすい作品でもあります。

あらすじ

「ウラシマトンネルって、知ってる? そこに入れば欲しいものがなんでも手に入るんだけど、その代わりに年を取っちゃうの――」。そんな都市伝説を耳にした高校生の塔野カオルは、偶然にもその日の夜にそれらしきトンネルを発見する。――このトンネルに入れば、五年前に死んだ妹を取り戻すことができるかも。放課後に一人でトンネルの検証を始めたカオルだったが、転校生の花城あんずに見つかってしまう。二人は互いの欲しいものを手に入れるために協力関係を結ぶのだが……。かつて誰も体験したことのない驚きに満ちた夏が始まる。

夏へのトンネル、さよならの出口

感想

個性豊かなキャラクターたち

主人公となるのは、高校二年生の塔野カオルです。

彼は妹を事故で亡くした過去を持ち、ずっと自分自身を責め続けてきました。母親は蒸発。娘と妻を同時に失い壊れしまった父と二人、海の見える田舎町・香崎で暮らしています。

そんな状況のため、カオルは少しすれた部分のある少年です。

芯の持たないことを芯にし、さらりと毒も吐く。時折放たれる彼の強烈なセリフは印象的でした。

(加賀翔平)「東京じゃ、電車が動物轢くこととかねえんだろうな」
(塔野カオル)「いや、あるでしょ」
「あるか?」
「人間とか」

『夏へのトンネル、さよならの出口』 16頁

(花城あんず)「私、親いない」
中略
(塔野カオル)「へえ、それはいいな」

『夏へのトンネル、さよならの出口』 82頁

本書のヒロインは、東京から引っ越してきた転校生の少女・花城あんずです。

クラスの女王様から嫌がらせをされても微動だにしない鋼鉄のメンタルを持ち、クラスメイトからも一目置かれるように。自分なりの基準を設け、基準以上の攻撃を受けたときは迷いなくやり返す強さを併せ持ちます。かっこよすぎる……!

登場から鮮烈な印象を残すキャラクターです。デレたときも可愛い。カオル曰く、ツチノコを捕まえたら売るんじゃなくて自室で飼うタイプ。

「はぁ。もういいや。ちょっと殴るね」

『夏へのトンネル、さよならの出口』 68頁

ほかにも、クラスの女王様的存在の川崎小春や、カオルの友人であり鋭い観察眼を持つ加賀翔平も登場します。時にはカオルたちと対立し、時にはカオルたちの背中を押す。四人の関係性も注目ポイントです。

ウラシマトンネルの妖しい魅力

欲しいものがなんでも手に入るというウラシマトンネルのうわさ。
教室のカーストに強烈な一撃を加える転校生の登場。
妹の死、そして家族とのすれ違い。

出だしから興味深い要素が続々と登場し、一気に物語の世界へと引き込まれました。

潮の香りが漂う、海と山に囲まれた田舎町・香崎という舞台の描写もまた素敵です。野山を駆け回った子供のころを思い出させるような、ノスタルジックな気分にさせてくれました。

物語は、塔野カオルが「ウラシマトンネル」という都市伝説を耳にするところから始まります。

そして、ひょんなことから本物の「ウラシマトンネル」を見つけてしまうカオル。

噂を思い出し、死んでしまった妹とまた会えるのではないかという期待を抱いたカオルは、ひとりトンネルの中に足を踏み入れます。

やがて、妹のカレンが履いていたサンダルや、かつて妹と飼っていたセキセイインコのキイと遭遇し、このトンネルが普通のトンネルでないことを思い知らされます。

欲しいものを手に入れるための代償の存在を思い出したカオルは、慌てて外へ。そこでカオルは、ウラシマトンネルにおける本当の代償がなんであるかを知ることになります。

不思議な力を備えたウラシマトンネルは、幻想的でもあり不気味な空間として描かれます。本当に進んでも大丈夫なのか、そんな不安が常についてまわり、けれども怖いもの見たさで先が気になってしまう。ちょっとしたホラー要素がスパイスのように効いてきます。

青春のひと時、そして迎える衝撃の結末

ウラシマトンネルの存在感が非常に大きい作品ですが、甘酸っぱい青春要素も見逃せません!

花城の部屋にひょんなことから招かれそこで二人だけの秘密を共有したり、夏休みの花火大会を一緒にまわったり……といったうらやましすぎるエピソードが目白押しです。物語後半、距離を縮めていくカオルと花城のやり取りは、読んでるこっちが恥ずかしくなるぐらいストレートで可愛い。にやにやが止まらない。もう最高か。

物語終盤、カオルはいよいよウラシマトンネルに挑みます。

代償を払ってまで妹と会いたいと願うカオルの懸命な姿には、胸を締めつけられる思いでした。そして、たどり着いた先で突きつけられる真実。

タイトルにもある「さよならの出口」ですが、何に対してのさよならなのか、その意味がわかったときは辛く切ない気持ちになること必至です。

印象に残った文

「結局さ、何が正しいのかなんて誰にも分かんないんだから、自分が選んだ道を全力で駆け抜けるしかないんだよ」

『夏へのトンネル、さよならの出口』 132頁

「失うことが怖くて得ることに対して臆病になってたら、お前、いつか空っぽの人間になるぞ」

『夏へのトンネル、さよならの出口』 172頁

最後に

夏っていいですね。青春と聞くと、夏を連想します。爽やかなイメージが強いからですかね。

本書も、そんな爽やかな読後感を与えてくれる物語です。青春とSF要素が有機的に絡み合い、とても重力のある作品でした。

物語を通して成長していく少年少女たちの姿が、いまも心に強く焼きついています。

人は生きていく間になにかを失っていく。それでも前に進まなければならない。

丁寧な心情描写に裏打ちされた物語です。カオルと花城の二人のその後も、いつか物語として読んでみたいですね。

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八目迷先生の3作目『ミモザの告白』もおすすめです。

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