『探偵はぼっちじゃない』坪田侑也(著)感想

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書評

今回紹介するのは、 坪田侑也さんの『探偵はぼっちじゃない』です。

第21回ボイルドエッグズ新人賞受賞作品。ミステリよりも、青春小説の面のほうが強いかも。解くべき謎は提示されますが、むしろそれよりも、主人公である少年の心の変化を追うことのほうに重点が置かれているような気がしました。

君となら、最高の謎(ミステリ)が作れると思うんだ。
生徒と教師、それぞれの屈託多き日々に降りかかった「謎」がやがてひとつとなったとき、何が起こるのか。中学3年の夏休みに書かれた、瑞々しくも企みに満ちたミステリ! 第21回ボイルドエッグズ新人賞受賞作。

Amazon 内容紹介 より

著者はなんと2002年生まれ、2019年3月時点で現役高校生です(若い)!

最近、現役の中学生・高校生がデビューすることが多いですねー。

ぱっと思いつく限りでも、小説すばる新人賞をとられた『星に願いを、そして手を。』の著者である青羽悠さんは2002年生まれですし、12歳の文学賞を受賞した 『さよなら、田中さん 』の著者である鈴木るりかさんは2003年生まれです。

ボイルドエッグズ新人賞というあまり聞き慣れなかった賞と、著者が当時中学生のときに書き上げた作品であること、そしてなによりミステリ小説であることから、気になって購入しました。

あらすじ

本作品は、2人の視点から物語が進められていきます。

1人目の語り手は、中学3年生である緑川光毅。一人称は「俺」。

そして2人目は、新人教師である原口誠司。一人称は「僕」。

緑川パート

緑川は、どこにでもいるような中学3年生の少年です。親からは受験勉強に集中しろと口を酸っぱくして言われ、学校では自分の居場所を得るために常に仮面を被り友情ごっこを続けています。

自分のことをなにもわかっていない両親の存在や、息の詰まるような学校での人間関係から、鬱屈した気持ちでいたところ、ある日、星野温という同級生に 「一緒に推理小説を書いてくれないかな?」 と声をかけられます。将来に向けての受験勉強をしなければならないという思いから、しばらく悩みますが、やがて友人のとある言葉をきっかけに、誘いを受けます。

「将来が確約されている選択肢なんてないでしょ。だから、どちらを選んだって後悔するかもだし。バッドエンドに繋がるとしても、今正しいと思う方を選べばいいと思ってる」

緑川がストーリー担当、星野がトリック担当、とそれぞれの得意分野を生かし、共同で小説の作成に取り組むようになります。

やがて、この共同作業を通し、緑川は星野のことを本当の友人だと思うようになり、自分の居場所を見つけていきます。

ところが、順調に進んでいたと思った矢先、大きな壁にぶち当たるのです。

こちらのパートでの謎は2つあります。

  • 緑川たちが書いているミステリ小説ではどのようなトリックが使われたのか
  • 星野温という少年は何者なのか

原口パート

もう1人の語り手である原口先生は、実の親が理事長を務める中学校の新任教師です。色眼鏡で同僚から見られることにうんざりし、親や周囲を見返そうと日々奮闘するものの、熱意が空回りしてしまう日々。

そんな彼は、たまたま同僚の石坂先生がとある自殺サイトに潜り込んでいることを知ってしまいます。そのサイトに自校の生徒が出入りしていることに気がついた2人は、なんとかその生徒の自殺を止めようと動き出します。

ところが、周囲の教師は非協力的。

有力な手掛かりが得られない中、集団自殺の決行日が刻一刻と近づき……。

こちらのパートでの謎はずばり、

  • 自殺しようとしている生徒は誰なのか

です。

やがて、緑川少年の物語と原口先生の物語とかぶつかり、1つの悲しい真実が浮き彫りになります。

夢と現実との壁

みなさんも似たような経験あるのではないでしょうか。やりたいことがあるにもかかわらず、親からとにかく勉強しろ、夢なんか見ていたって食っていけないんだ、と言われたことが。そして夢を追うのをあきらめ、高校や大学に進学するためだけにひたすら勉強に取り組んだことが。

本作で描かれているのは、自分が本当にやりたいと思う夢と、夢ばかりを追っていられない現実とのギャップに苦悩する中学生の姿です。

小学生のころには自由に思い描けていた夢ですが、やがて中学生になり、現実が見え始めたことと周囲の圧力とで、次第にその夢をあきらめ、忘れるようになってしまいます。

そして、大して面白くもない日々を、怠惰に送るようになります。

そこのあたりの描写が、とてもリアルに描かれていました。

両親への反発心や、うわべだけの友人関係など、ああこんなことあったなあ、と思わず自分の過去が重なりました。

夢を追ったところで、成功するとは限らないし、それだけで食べていけるようになる可能性は少ないでしょう。ですが、周囲の大人がはなから勉強だけに打ち込めと圧力をかけるのもどうなのかな、と思います。

大人になり社会の厳しさを目の当たりにしたからこそ、子どもの将来を心配して出てしまった言葉なのかもしれませんが、もう少し、子どもの可能性を信じてあげてもいいのではないでしょうか。

勝手な意見ですが。

「夢にしがみついている姿って、一番人間らしいな」

緑川が書く小説の登場人物の言葉です。

自分が本当にやりたいことをやっているときが、一番人間が輝けるときだと思います。

緑川のことばかり書いてましたが、新任教師、原口先生も、物語を通して大きく成長していきます。

親を見返そうというあまり、空回りばかりしていた彼ですが、自殺サイトに登録した生徒を突き止めようとするうち、やがて教師としてあるべき姿を見つけ出します。

まだまだ発展途上ですが、親からの呪縛から解き放たれた彼は、良い教師へと成長していくことでしょう。

最後に

現役の学生さんが書いたということで、非常にリアリティのある心理が描かれています。

ここまで書ききった著者の才能には、素直に賞賛の声を送りたいと思います。いやあ、本当におそろしいまでの才能でした。

気になった点といえば、緑川と星野が書いていた小説に登場する部室棟の位置関係が、いまいち把握しづらかったところでしょうか。単に私の空間認識能力が低いだけかもしれませんが。すんなりと事件の全容が把握できず、そこがちょっと残念でした。

あともう一つ気になったのが、植木鉢の行方です。あれは本来どう活用される予定だったのか。できればそっちの解決も見たかったです。

中学生と新任教師と言う2人の語り手、現実と小説という2つの世界。なかなか複雑な構造となっていますが、流れとしては非常によくできており、すんなりと読み進めることができました。

次回作も楽しみにしています。

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