本日紹介するのは、山本弘氏の作品『僕の光輝く世界』です。
気弱なオタク男子、光輝は進学先の高校でもいじめられ、あげくに橋から突き落とされる。搬送先の病院で絶世の美少女と運命の出会いを遂げた、と思いきや、実は既に失明してしまっていた。美少女は果たして妄想なのか実在なのか…視覚を失った少年が、想像力を駆使して奇妙な謎と格闘する不思議ミステリー。
「BOOK」データベースより
偶然、書店であらすじを読み、その場の勢いで購入しました。
本作のポイントは、なんといっても視覚を失った少年が主人公という点です!
山本氏は、主にSFを得意とする作家さんのようで、だからこそこのような特殊な設定のミステリを書けたのかもしれませんね。
あらすじ
『僕の光輝く世界』は、4話から構成される短編集です。
主人公は、とある事件をきっかけにアントン症候群という珍しい障害を負ってしまった少年・高根沢光輝。
ミステリであると同時に、彼の成長の物語でもあります。
以下、各話の簡単なあらすじを載せておきます。
黄金仮面は笑う
学校からの帰り道、光輝は黄金仮面をつけた何者かの手によって橋の上から突き落とされてしまう。さらに、運び込まれた病院でも、黄金仮面を被った人物に殺されそうになる。なぜ自分は命を狙われるのか。転落時の後遺症で視力を失い、虚構の世界で生きることになった少年は、やがて残酷な真実を知ることになる。
少女は壁に消える
病院で出会った少女・神無月夕とデートをすることになった光輝。自宅で会話に花を咲かせていると、彼の姉が帰ってくる。光輝は姉を夕に紹介しようとするが、夕は突然、壁の中に消えてしまう。混乱する光輝に追い打ちをかけるように、姉は、夕のいた形跡などひとつもないと言う。「ねえ、神無月夕なんて女の子、実在するの?」
世界は夏の朝に終わる
姉が高校時代の友人と飲みに行くことになり、一人家に残された光輝。そんな中、関東地方一帯を強い地震が襲う。やがて姉が家に戻ってくるが、様子がどこかおかしかった。不安をおぼえる光輝の目に、姉が突然、ロボットに見えてしまう。さらに、飛び出した外では、建物が倒壊し、滅びた世界が広がっていた。突如崩壊する日常。いったい何が起こったのか――。
幽霊はわらべ歌をささやく
とあるマンションで殺人事件が起こった。事件当夜、現場となった建物に偶然居合わせた光輝は、マンションのエレベーターでわらべ歌を歌う幽霊に遭遇してしまう。その歌は、何度も耳にしたことのある、とあるアニメの挿入歌だった。なぜ、幽霊はわらべ歌を光輝に聞かせたのか。殺人事件に、視覚を喪失した探偵が挑む。
ミステリに慣れた人でも新鮮な気持ちで読み進められる、SFチックなミステリ
ライトなタッチで描かれた、どこかSFっぽさを感じるミステリ。
アントン症候群という聞きなれない病名が登場しますが、設定も非常にわかりやすく、サクッと読み進めることができます。
主人公となる光輝少年は、なかなか肝が据わった人物です。
出だしから、殺されかけ、さらに失明するという、普通なら発狂してもおかしくない状況に追い込まれます。
ところがこの光輝、転んでもただでは起きません。
失明したとは言っても、視覚以外の感覚から得た情報をもとに、脳が創り出したイメージを見ることができるので、そこまで強いショックを受けなかったのかもしれません。
光輝は、まるで映像をCGで修正して見るかのような、特殊な世界の見え方ができることをうまく利用していきます。
出会った少女が自分好みの美少女に見えたり、その彼女に好きなアニメのキャラクターの服を着させて楽しんだり。
もうやりたい放題です笑
と言っても、もちろん問題点もあるわけで、そのせいで様々な困難に出くわします。
突然少女が壁に埋まったり、世界が滅びたり。
なぜそのように脳が認識してしまったのか、を解くのが、本書のミステリ要素です。
普通では考えられないような謎でしょう?笑
話としては、1話から3話までが少年の成長物語を描いているのに対し、4話目はミステリ要素が前面に押し出されています。とは言っても、最終話の謎解きでももちろん主人公の特異性がフル活用されていますので、ほかのミステリ小説と比べて一風変わった楽しさを味わえます。
ちなみに、4話目は、1話から3話までを足した分とほぼ同じページ数になっており、最初読むときはびっくりしました笑
気になる点と言えば、主人公がお人よし過ぎるところでしょうか。そこは賛否両論別れるところかもしれません。
主人公の光輝は、失明をするものの、決して絶望することなく、前を向いて生きていこうとします。
アントン症候群という疾患を『能力』とポジティブに捉え、姉に迷惑をかけないために自立できる道を模索していくんです。
両親に捨てられ、姉と二人で暮らしてきた光輝。そんな過去がありながら折れずに来れたからこそ、前向きになれたのかもしれませんね。
一変する環境、家族との確執、将来への不安――いくつもの困難を力強く乗り越えようとする主人公の成長ぶりも、必見です。
最後に
少々、分厚いですが、読み始めたらそんなこと気にならなくなります。
もしシリーズ化したら、迷わずに購入したい!
現実を舞台にしながら、どこかSF要素を感じることのできる、珍しい作品です。
ぜひご一読ください!
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