『紅蓮館の殺人』感想/燃え盛る炎の中で真実をつかめ!

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書評

誤解している人が多いかもしれないが、『転ばぬ先の本』はもともとぼくが読んだ本を紹介しようと思って始めた書評ブログである。気づいたら当初の構想から大きく脱線し、ポケモンの記事ばかりになっているけど。いつからここはゲームブログになったんだ?

このままだと「『転ばぬ先のゲーム』に改名しろ!」といったクレームが飛んできかねないので、今回は原点に立ち返って最近読んだ小説を紹介する。阿津川辰海(あつかわたつみ)の『紅蓮館の殺人』である。

こちらは、ブログ読者の方から紹介してもらった。コメントありがとうございます。

タイトルを見てもらえればわかるとおり、ゴリゴリのミステリ小説だ。おそらくというかほぼ確実に綾辻行人の館シリーズの影響を受けている。

簡単に『紅蓮館の殺人』のストーリーを紹介すると、落雷により発生した山火事から逃れるため山奥の館へ避難した高校生探偵たちが、館内で起こる痛ましい殺人事件を解決するお話だ。

外側からは紅蓮の炎が迫り、内側には凶悪な殺人鬼がひそむ。生き残るために協力し合うか、それとも真相究明のためにお互いを疑い合うか。予告編で「生存率0%の極限ミステリ」とあおり文句を流せるぐらいには詰んでいる

そんな過酷すぎる環境下で事件に挑むのは、これまでに少なくとも2つの殺人事件に巻き込まれたことがある助手・田所信哉と、醜い大人たちを目にするうち嘘を敏感に感じ取れるように進化したお坊ちゃま探偵・葛城義輝だ。

ミステリ小説の探偵は、なんだかんだ設定が盛られがちである。世間に探偵が増えすぎたせいで、ミステリ作家があの手この手で差別化をはかろうとしているからだ。本書の探偵も、そんなインフレの影響を受けて誕生したと思われる。

名家の息子で、嘘を見抜けて、警察から事件解決のアドバイスを求められる高校生ってなんだよ! あと助手は助手でナチュラルに事件に巻き込まれていて怖いよ! きみがこのシリーズの死神担当か!?

感想としては、歯ごたえのある本格推理モノで大満足。過去と現在、そして探偵と元探偵が複雑に関わり合う展開が面白く、一気読みした。ただ気になる部分もある。

個人的に引っかかったのは、目玉となるトリックだ

穴があるとかそういうわけではなく、単純にわかりづらい。一読しただけでは理解できず、状況を把握するのにだいぶ手こずった。よほど想像力がたくましくないと、文章からあの仕組みを正確に把握するのは難しいだろう。

これは説明不足というより、今回使われたトリックと小説との相性が悪かったことが原因だと思われる

絵で描ける漫画と違い、文章で勝負する小説は読者の想像力に頼らざるを得ない。微に入り細を穿った説明を書いたとしても、作者の持つイメージを過不足なく読者に伝えることは不可能だ。どうしても情報のロスが起こる。その結果、ぼくのようにつまづいてしまう者が現れる。

しばらく読み進めるとトリックの図解が出てくるのだが、どうせ出すならもっと早い段階で図示してほしかったというのが正直なところだ。

と、まあ、ちょいちょいツッコミどころが出てくるせいで前半はやや失速気味に感じたが、そこで終わらないのが『紅蓮館の殺人』だ。伊達にいろいろなミステリランキングで高順位をとっているわけではい。後半に入ると怒涛の巻き返しを図ってくる。

そう……

ミステリの醍醐味、解決編だ!

ぶっちゃけ、ここさえよければほかはどうでもいい! 推理こそすべて! ご都合主義だろうがなんだろうが面白ければ問題ない! 異論は認める!

今からホールに全員を集めます。そして、全てを壊す﹅﹅

『紅蓮館の殺人』

セリフが青くさい! だけどそこが探偵らしくていい!

そんなこんなで満を持してはじまる探偵の謎解き。タイトルに館を冠しているだけあって、ロジックの積み重ねは圧巻だ。まるでドミノ倒しのように次々と真実が明らかになっていく瞬間は、控えめに言ってめちゃくちゃ楽しい。

これまで感じていた違和感が、思いもよらぬ真相をあぶりだす。このときの視界がさあっと開けるかのような爽快感は、一度味わうとすっかりやみつきになってしまう。

それと同時に、これほど丁寧にヒントを散りばめてくれていたにもかかわらず、真実を見抜けなかった自分の不甲斐なさに打ちのめされたりもする。

あ、あ、言われてみれば確かに不自然さはあった! なんで気づかなかったんだぼくは! あほ! まぬけ!

読み返してみると、すべての手がかりがフェアに提示されているから憎い。作者の手のひらで踊らされていたかと思うと悔しさに歯がみするが、これもミステリ小説の楽しみのひとつだ。

大胆なトリック、迫るタイムリミット、個性的な登場人物、そして探偵のあり方。『紅蓮館の殺人』ではさまざまな要素が入り混じっているぶん、すべてが刺さる読者は少ないだろう。ここはよかったけど、ここは肌に合わなかった、そんな感想を抱く人が多い気がする。

とはいえ、エンターテイメント性はずば抜けているし、文体は全体的にライト。なによりマイナス点を補って余りあるほどの謎解きの快感を与えてくれる。

緻密なロジックに支えられたミステリ部分は高水準にまとまっているので、興味のある方はぜひ読んでみてほしい。

コメント

  1. イデオン より:

    ???「『転ばぬ先のゲーム』に改名しろ!」

    ミステリ好きだから気になる
    ていうか割と全ジャンルいける

  2. 二足歩行食パン より:

    コロバヌサキノげーむニカイメイシロ~WWW
    面白そうだけどここド田舎過ぎて本屋がないんだよな~ネットで買うのも難しいし。

    「キャラクターの設定も大げさな描かれた部分が目立ち、感情移入が難しい。これが小説ではなく漫画だったら、もうちょっと違った印象を持ったかもしれない。」
    って所の大げさな描かれた部分が目立ち、って所なではなくてにでは?それと描かれたでなくて書かれたじゃないですか?僕が間違ってたらすみません。

  3. ライム ライム より:

    >大げさな描かれた部分が目立ち、って所なではなくてにでは?それと描かれたでなくて書かれたじゃないですか?

    「な」と「に」を打ち間違えたみたいです。ご指摘ありがとうございます!
    えがかれた」は「描写する」の意味で使っています。

  4. ライム ライム より:

    >ミステリ好きだから気になる

    もし読む機会があれば、ぜひ感想を聞かせてください!

  5. 二足歩行食パン より:

    そういうことですかわかりました。

  6. イデオン より:

    自分は割と都会に住んでるけどそこまで本屋行くことはないな…
    そのかわり一回行くと馬鹿みたいに買っちゃうんだけどね…
    あと、読む機会があれば感想書きますねー
    読書好きだけど話す人いないし結構王道ばっか読んじゃうから書評を通して新しい本を知れるのなら普通に嬉しい
    今後とも応援してます

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