『死者殺しのメメント・モリア』夢見里龍(著)感想

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書評

メメント・モリ。死を忘れることなかれ――。

今回読了した本書『死者殺しのメメント・モリア』は、第26回電撃小説大賞最終候補作です。

著者は夢見里龍ゆめみしりゅう先生。

死神と契約を結び永遠の命を得た美しい少女が、あるものを求めて地球のあらゆる時代、あらゆる場所を旅する物語です。

KU先生のイラストも素敵ですね。モリアの美しさと、死神シヤンの底知れなさがよく伝わってきます。さりげなく描かれた髑髏もほどよいスパイスです。

「死」を巡る重厚なダークファンタジーであり、4つの場所、4つの時代を紡ぐ言葉に導かれて辿る旅路にすっかり魅了されました。

作品情報
  • 出版社:株式会社KADOKAWA
  • レーベル:メディアワークス文庫
  • 発売月:2021年9月

あらすじ

永遠を生きる少女と死神が巡る、死と葬送の物語

死は平等である。富める者にも貧しき者にも。だが時に異形となる哀れな魂があり、それを葬る少女がいた。
モリア=メメント。かつて術師の血を継ぐ王族の姫だった娘。特別な力をもち、今はとき渡りの死神シヤンとともにあるものを捜し旅をしていた。
シヤンのもつテンプス・ギフトの時計に導かれ、あらゆる時と場に彼らは出向く。現代ニューヨーク、17世紀パリ、時代と場所が変わっても、そこには必ず、死してなお悪夢を見続ける悲しい亡霊ゴーストたちがいた――。

『死者殺しのメメント・モリア』裏表紙

主な登場人物

  • モリア=メメント……術師の血を引く王族の娘。死神・シヤンと契約し、永遠の命を得る。ゴシック調の青い服をまとう。あるものを捜すため、死者を葬りながら時を渡る旅を続ける。
  • シヤン=ラウエレウム……瞳に青い灯を燃やす死神。美形。モリアと契約を結び、従者となる。飄々とし、常に嘲笑を浮かべている。

感想

少女と死神が紡ぐ死と愛と憎しみの旅

少女の主人と、美青年の従者。

最高の組み合わせかよ!

しかもこの二人、ただの主人と従者ではありません。少女・モリアは永遠の命を持ち、一方の従者・シヤンはなんと死神です。

当然ながら、二人の関係は一筋縄ではいきません。

従者でありながら、契約主であるモリアを揶揄うシヤン。モリアの危機に遅れてやってきたり、モリアを試すような言動をとったりと、油断ならない死神です。敵ではないが味方でもない。あくまで契約によって結ばれた二人。奇妙な緊張感を備えた関係で、すっかり引き込まれました。

死は平等に訪れる、そんな信念を胸に死者を葬り続けるモリア。彼女の一貫して毅然としてブレない態度が魅力的。

旅を続ける二人の前には、死んでも死に到れない亡霊が多く現れます。現世を彷徨い続ける理由はさまざま。恨みを抱いている者、術に操られている者、そして誰かを愛している者。亡霊の数だけ、彼らの描いてきた人生の軌跡が存在します。

本編では亡霊との邂逅を通し、いくつもの愛と憎しみのストーリーが語られます。死者と生者との掛橋になり、彼らの物語を最後まで見届けるモリア。感情を揺り動かすモリアを通して、退屈な人間に一抹の興味を見せるシヤン。

いくつもの死を乗り越え、過酷な運命へと突き進む二人。モリアたちが進む道を、読者として最後まで見届けたい。

幻想的な文章に彩られた物語

本書を読み始めてなによりもまず驚かされたのは、物語を描く幻想的な文章です。目を見張るような美しい描写がいくつも綴られており、異国の風景が目の前に浮かんできました。

普段見る機会のない難しい漢字や単語がところどころ使用されていますが、逆にそれが文章に厳かで格調高い雰囲気をまとわせています。意味は漢字からなんとなく想像しました。

死者にまつわる物語でありながら、静謐で美しい。読後は静かな余韻を味わうことができます。

章ごとに時代も国も変わり、新しい章が始まるたび、新鮮な気持ちに。

二十一世紀のニューヨークから十八世紀フランスへ。再び現代のアメリカに戻り、最後はポーランド。

現実の歴史に刻まれた事件にオリジナルの要素を絡めて展開していく世界観にただただ圧倒されます。描写が巧みで、その時代に暮らす人々の息遣いが聞こえてくるよう。

歴史の知識があればよりいっそう世界観にのめりこめたかもしれないと思うと、世界史に明るくなかったことが悔やまれます。

以下、各話のあらすじと感想を載せていきます。

第1話:二十一世紀の人狼は眠らない AD2003 New York

2003年、ニューヨーク。とある店で、強盗に押し入った5人が惨殺されるという事件が起こった。強盗の遺体には獣に食いちぎられたようなあとが残され、地元新聞は人狼の仕業だと報じる。そんな中、モリアはアンティークショップを訪れ、アナスタシアという女性店員と出会う。

なぜ人狼が現れ人を襲うのか。

モリアたちの手により辛く切ない過去が判明したときは、人狼の慟哭が聞こえてくるようでした。小さなボタンの掛け違えが、やがて決定的な歪みを生む。やるせませんね。

人狼を葬る直前のモリアの言葉が胸に沁みました。

情景描写も素晴らしいですが、人狼との手に汗握る戦闘描写も見応えあります。それまで怪しげな雰囲気を醸し出すに止まっていたシヤン、彼の実力が発揮されるシーンは必見です。

わたしはただ、死者は等しく眠りにつくべきだと想うだけよ

『死者殺しのメメント・モリア』 19頁

第2話:ヴェルサイユ宮殿の魔女は歌う AD1756-1773 Paris

1773年、フランス。ヴェルサイユ宮殿に入り込んだモリアとシヤン。豪華絢爛な宮殿では最近、貴族が妻、娘などの血縁者を惨殺し自害するという猟奇事件が続いていた。モリアは、東欧の錬金術師ヴァニタスの協力も得て、真相を究明しようと動き出すが――。

二十一世紀が舞台だった1話から一転、物語の舞台は十八世紀フランス・パリへ。

現代とはまったく違う統治制度、人々の暮らし、街の景色が精緻な筆づかいで描かれており、その巧みさに舌を巻きました。

母親の子を想う気持ちに焦点を当てた本章。終盤は涙腺が緩みました。

謎めいた錬金術師が登場し、物語はさらなる広がりを見せていきます。

人間の醜さを嘲笑ったシヤンのセリフが印象深い。

如何ほどの巨富を築きあげ、幾千幾万の民や領地を支配しても、もっともっとと際限なく欲しがる。底の抜けた杯のようなものですよ。いくらそそいでも充ちるを知らず、底から溢れ出していることにも気づかない。そのうちにひびが入って、ぱっくりと割れるまではね

『死者殺しのメメント・モリア』 88頁

時代が移り変わろうとも、人の業は変わらない。そのことを思い知らせてくれます。

第3話:ペンシルベニアの吸血鬼は誰がために AD2017 Pennsylvania

2017年、フィラデルフィア。文化都市では、身体から血液を抜かれた女性の遺体が連続して見つかっていた。人間の所業とは思えぬ行為に、人々は吸血鬼の仕業ではないかと噂する。モリアとシヤンは警察の目を欺きながら、情報収集を開始する。

フィラデルフィアやペンシルベニアと聞いたとき、真っ先にヨーロッパを思い浮かべましたが、実際はアメリカ合衆国の地名でした。恥ずかしい。

猟奇殺人の裏に隠された非業の死。想いが強ければ強いほど、ときに人は残酷な選択をしてしまう。そう考えると、術師の末裔でありながら愛する者の死を受け止めたモリアの心の強さには驚かされます。

死神のシヤンが普通にパソコンを使いこなしている姿に、思わずほっこりしました。いまどきの死神は機械にも強いらしい。

第4話:アゾフ海の隠者と死の血裔 AD1778 Wild Field

1778年、ポーランド。暗雲立ち込め得る国内では、教会での虐殺事件が多発していた。現場に残された十二芒星のマーク、それはメメント一族の紋章だった。とある修道院に向かったモリアたち。そこで待ち受けていたのは意外な人物だった。

本書の最後を飾る物語。

途中、まさかの展開が訪れ、一気に不安が膨らみます。

そしてついに明かされるモリアの過去。彼女がかつて目にした悪意の全貌が明らかになります。

まさに鬼畜の所業。地獄に直面したモリアを思うと、胸が張り裂けそうでした。

しかし、彼女は決して運命に身を任せようとはしません。その強く気高い意思こそが、モリアとシヤンを引き合わせたのです。

目を覆いたくなるような凄惨な出来事に直面しながらも、己を律し歩みを止めない主人公の姿に心打たれました。かっこよすぎる……!

最後に

これは死にまつわる物語であり、愛と憎しみの物語でもあります。

掛け違えたボタンはやがて決定的な間違いを生み出す。しかし、当事者たちはその間違いを正す術を持たない。本来あるべき姿を取り戻させる、その役割を担うのがメメント=モリアです。

モリアとシヤンの旅は、まだ始まったばかり。この先もきっと多くの亡霊たちが彼女を待ち受けていることでしょう。

死者の魂はどんな物語を見せてくれるのか。

モリアとシヤンはどんな終わりを見せてくれるのか。

2人の旅の行く末が気になります。

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