「普通じゃない事件と捜査。あなたはこのトリックを見抜けるか?」
はい、こんな帯の文句が目に入ったら、ミステリ好きは買うしかないでしょう!
今回紹介するのは、 吹井賢氏の『破滅の刑死者 内閣情報調査室「特務捜査」部門CIRO-S』 です。
こちらは、第25回電撃小説大賞メディアワークス文庫大賞受賞作品となっています。
究極のサスペンス・ミステリということで、期待に胸を膨らませながら読み進めました。
あらすじ
ある怪事件と同時に国家機密ファイルも消えた。唯一の手掛かりは、事件当夜、現場で目撃された一人の大学生・戻橋トウヤだけ―。内閣情報調査室に極秘裏に設置された「特務捜査」部門、通称CIRO‐S。“普通ではありえない事件”を扱うここに配属された新米捜査官・雙ヶ岡珠子は、目撃者トウヤの協力により、二人で事件とファイルの捜査にあたることに。珠子の心配をよそに、命知らずなトウヤは、誰も予想しえないやり方で、次々と事件の核心に迫っていくが…。第25回電撃小説大賞メディアワークス文庫賞受賞作品。
「BOOK」データベースより
感想
個性豊かなぶっとんだ登場人物たち
本作に登場するのは皆、一筋縄ではいかない人物ばかりです。
自分の命すら平気で賭ける、頭のねじが外れた問題児、戻橋トウヤ。
新米捜査官にして、作中、唯一の常識人(ただし名字の難しさは非常識)、雙ヶ岡珠子。
珠子の上司、マキャヴェリズムが服を着た男、佐井征一。
国家機密ファイルを狙う恐るべき犯罪結社の首魁、ウィリアム=ブラック。
一癖も二癖もあるキャラクターがひしめき合う中、主人公であるトウヤの狂いっぷりは飛びぬけています。おもしろいから、という理由で暴力団との交渉に赴いたり、情報を得るために自分の腕を賭けてポーカーを挑んだり、彼は常人では考えられないような行動ばかりとります。そんな彼に、臨時の相棒となった珠子は振り回されてばかり。
自分の命すら粗末に扱うトウヤと、自分だけではなく他人も守りたいという彼女なりの正義を抱く珠子。真逆の方向を向いている二人が互いに影響を与え、やがて息の合った連携プレーを発揮する展開には、バディものに通ずるカタルシスがあります。
巧みな心理戦
本作の見どころはなんといっても、国家機密ファイルを巡り、 上記のぶっとんだやつらが繰り広げる巧妙な心理戦です。
恐るべき異能を持った犯罪結社の首領を、どのようにして倒すのか。
本作の世界では、異能が存在しています。異能というと、派手な戦闘シーンが思い浮かぶかもしれませんが、本作ではそのような異能バトルは起こりません。あくまで頭脳戦のファクターとして使われます。
裏社会を生き延びてきた男たちすら呑み込む狂気を宿し、鋭い観察眼とたぐいまれなる頭脳を併せ持ったトウヤの繰り出す一手は、突き抜けすぎていてどこか爽快感すらおぼえました。
最後に
戻橋トウヤとは何者なのか? 犯罪結社が狙う国家機密ファイルの内容とは? トウヤの異能はどのようなものなのか?
序盤から様々な謎が提示され、ページを繰る手が止められませんでした。
そして、ラストに待ち受ける大どんでん返し。
心理戦を重視している物語展開のため、国家機密ファイルを巡る戦いにしてはいささかこぢんまりとしすぎではないか、という印象がぬぐえなかったけれど、突き抜けた個性を持ったキャラクターたちとスリル溢れるストーリーはとても楽しめました。
トウヤの過去や、彼の初恋の女性など、気になる謎はまだまだ多く残っています。
次の巻も読まなければ……!
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