『早朝始発の殺風景』青崎有吾(著)感想

書評

青春ってきっと、気まずさでできた密室なんだ。

『早朝始発の殺風景』 178頁

場面転換なしのワンシチュエーション&リアルタイム進行で紡がれる五つのミステリ。

著者は『体育館の殺人』で鮎川哲也賞を受賞した青崎有吾あおさきゆうご先生です。

日常における些細なすれ違い、疑問に焦点を当てた謎解き短編集。

穏やかな時間の中に潜むわずかな違和感から思いもよらない真実を導き出すストーリーに、思わず息を呑みました。

謎が解かれていく楽しみと、謎を見つける楽しみが味わえる一冊。

1話目、2話目と読み進めるにつれ、どんどんこの物語の持つ雰囲気が好きになります。

こんな人におすすめ!

  • “日常の謎”を扱ったミステリを読みたい
  • 優しくもあり苦しくもある青春時代の雰囲気をもう一度味わってみたい
  • 学園ミステリが好き

あらすじ

青春は気まずさでできた密室だ――。
今、最注目の若手ミステリー作家が贈る珠玉の短編集。
始発の電車で、放課後のファミレスで、観覧車のゴンドラの中で。不器用な高校生たちの関係が、小さな謎と会話を通じて、少しずつ変わってゆく――。
ワンシチュエーション(場面転換なし)&リアルタイム進行でまっすぐあなたにお届けする、五つの“青春密室劇”。書き下ろしエピローグ付き。

『早朝始発の殺風景』

感想

青春の密室

シンプルな設定でありながら、深みのあるお話でした。

些細な違和感に気がつき、その謎の答えを導き出すことで、これまでほとんど接点のなかった関係に変化が訪れる。そんな小さな奇跡に心が温かくなりました。派手さがない分、心地良い。

ちょっと不穏な場面はあるけれど、総じて爽やかな読後感です。

あまり関わり合いのない同級生とばったり鉢合わせてしまって気まずくなるシーンでは、思わず「あるある!」と心の中で叫びました。自分は残念ながら、この小説のように繋がりを持つには至りませんでしたが。

接点の薄かった彼らが距離を縮めていく様子が、読んでいて眩しく感じられました。

クラスメイト、兄妹、部活の先輩後輩など、様々な関係性が見られるのも良い。彼らの抱く気まずさが解かれ、密室が開く瞬間は何度読んでも胸にグッときます。

日常の中にある小さな謎

本書の大きな特徴として、ミステリでは珍しく“謎”が謎のまま話が進んでいきます。

ミステリの多くは、解くべき謎が読者に明確に提示されます。それは“日常の謎”も例外ではありません。「校舎の壁に落書きが!? 書いた犯人を見つけよう」こんな感じになるのが基本です。

けれども、本書はちょっと違います。

事件らしい事件、謎らしい謎が明言されません。

物語の前半は高校生の何気ない日常が描かれており、ぱっと読んだだけではどこに謎があるのかが謎。

自分が同じ場面に出くわしたとしたら、違和感があることにすら気づかず漫然と通り過ぎてしまうだろうなあと思いました。それだけ謎が日常の中に溶け込んでいます。

もしかしたら普段の生活も、こんな些細な謎に溢れているのかもしれない。もっと観察して推察していけば、思いもよらない景色を見せてくれるかもしれない――。そんな期待を抱かせてくれる物語でした。

以下、エピローグを除いた各話の簡単なあらすじと感想を載せていきます。ネタバレには気をつけていますが、未読の方はご注意ください。

早朝始発の殺風景

スクールバッグを揺らしながら始発の電車に乗り込んだ加藤木かとうぎ。ところが車内には、クラスメイトの殺風景が座っていた。学校へ行くには早すぎる時間帯なのに、なぜここに……? 加藤木と殺風景は、気づけばお互いが始発電車に乗っている理由を探り始めていた。

まずなによりも、タイトルにもある殺風景が人の苗字だったことに驚き! とんでもない苗字ですね。

なにげなく描写されていた風景や行動が思わぬ伏線になっており、ミステリ小説ならではの緻密な構成に驚かされます。

散りばめられたヒントを回収していく推理シーンは圧巻の一言であり、読み応えのあるお話でした。

加藤木と殺風景の会話が面白くて好き。

「殺風景」
「なに?」
「一応言っておくと、クラスの女子から『一緒にいるのを避けたい』って明言されるのはけっこうショックだぞ」

『早朝始発の殺風景』 27頁

ラスト一文がおっかない。

メロンソーダ・ファクトリー

真田たち仲のいい三人組は、クラスTシャツのデザインを決めるためファミレスに集まっていた。手元にあるのは2案。片方は真田が作成したものだ。どちらのデザインがいいか二人に尋ねる真田だったが、小学校からの仲である詩子が自分のデザインを選んでくれなかったことに、軽くショックを受ける。意見が割れたことで、三人は話し合いをすることに。

読み始める前、タイトルから「ドリンクバーでえげつない組み合わせの飲み物を作って中身を当てるお話かな」と馬鹿みたいな予想をしていました。ぜんぜん違いました。

謎解きのために用意されたような無味乾燥とした謎ではなく、日常の延長にあり人間味が感じられる謎が描かれています。

三人のお互いを気遣う姿が微笑ましい。いいですね、こういうの。青春の1ページって感じです。

夢の国には観覧車がない

部活の引退記念として、遊園地を訪れた寺脇。本当は意中の女子と一緒にまわりたかった寺脇だったが、不運が重なり後輩の男子・伊鳥と二人で観覧車に乗る羽目になる。部活でもあまり話したことのない二人。手探りで会話をしているうちに、寺脇はある疑問をおぼえるのだった。

男2人、しかもそれほど親しくもない先輩後輩の間柄で観覧車に乗るなんて、地獄のような空間だなと思いながら読み始めました。

好きな女子と一緒に遊園地を回れなかったこともあり先輩の寺脇は文句を垂れていますが、まあ青春最後の1日が台無しにされたらテンションだだ下がりになるのも仕方がない。

けれども物語はその後、意外な展開をむかえます。

後輩・伊鳥の健気さに痺れました。青春してるなあ。

捨て猫と兄妹喧嘩

公園に置かれていた段ボールの中には猫が入っていた。マンションに住む妹は、猫を連れて帰って飼うことができない。そこで妹は、別に住んでいる兄を呼び出し、猫をもらってくれるようせがんだ。ところが兄は、猫を受け取ることを拒むのだった。

両親の離婚により、別々に暮らすことになった兄妹の物語。

本書に収録されている話の中では重い雰囲気。

人間の身勝手さが垣間見え、苦い気持ちになりました。

猫に幸せな未来が訪れることを願います。

三月四日、午後二時半の密室

卒業式を風邪で休んだ同級生・煤木戸すすきどに卒業証書を届けるため、彼女の家を訪れたクラス委員の草間。馴れ合いを嫌い一匹狼を貫く煤木戸はクラスでも浮いた存在だ。会話が弾まず気まずい空気が流れる中、草間はふとした拍子に疑念を抱く。煤木戸の風邪は、卒業式を休むための仮病ではないのか――。

クラス委員として煤木戸の家を訪れたに過ぎない草間。

ずばずばと思ったことを口にし、友達が少なかった煤木戸。

たいして関わり合いのなかった二人が、卒業式という特別な日に繋がりを手にするストーリーが魅力的でした。

クラスメイトからのメッセージで埋め尽くされた草間の卒業証書と、真っ白なままの煤木戸の卒業証書の対比がつらい。

ラストのシーンでは思わず涙腺が緩みそうになりました。

最後に

どのお話も好きですが、個人的に特にいいなと思ったのは、謎解きでいえば『早朝始発の殺風景』、物語の雰囲気でいえば『三月四日、午後二時半の密室』です。

何気ない日常をミステリとして昇華させた作者の技量に、ただただ尊敬の念を抱きます。

心打たれる素敵な一冊でした。


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