女難体質かつ探偵体質の真丘陸は、外を歩けば一癖も二癖もある女性たちと数々の事件を引き寄せてしまう――。
不幸な体質を2つも持った主人公が活躍するライトミステリー。
著者は『薬屋のひとりごと』でお馴染みの日向夏先生。
イラストはmagako先生。意味深に不敵な笑みを浮かべる女子生徒のカバーイラストが目を引きますね! ミステリーらしい不気味さがほどよく出ています。
本書は4つの事件を扱った連作短編。
ライトノベルだし高校を舞台にしているからマイルドな事件かなー、と思っていたら1話目からがっつり死体が転がります。ただ、雰囲気はそこまで重くならず。ミステリにありがちな複雑怪奇なトリックや人間関係に翻弄されることもなく、構成はわかりやすい。
事件と異性に振り回される陸の活躍から目が離せませんでした。
- 出版社:株式会社KADOKAWA
- レーベル:MF文庫J
- 刊行月:2021年10月
あらすじ
それは殺人事件から始まる、運命の出会い――。
真丘家の男子は十八歳までに運命の女性に出会わなくてはならない。でないと、十八歳で死ぬ。つまり本日、十七回目の誕生日を迎えた俺・真丘陸にはあと一年の猶予しかないということである。しかし、その残念な運命を回避するには厄介な体質が俺にはあった。しかも二つ。一つは女難体質で、この中に運命の相手がいても困るレベルでヤンデレばかり引き寄せてしまうこと。そしてもう一つは、超がつく探偵気質であること。それはもう、ちょっと出かけると事件に巻き込まれるような。というわけで、今日もまた死体に出くわしたのだが……。もしかして、犯人が運命の人ってことはないよな?
『迷探偵の条件1』裏表紙
主な登場人物
- 真丘陸(まおかりく)……葉桜高校二年生。女難体質にくわえ探偵体質を持つ。十八歳までに運命の相手を見つけないと死ぬ。現在、十七歳。これまでに数多くの異常事態に巻き込まれたおかげで死体が転がる程度では動じない。女子との接触を極力減らそうと常に警戒しており、同じクラスの女子たちの部活や趣味、交友関係に関する情報収集に勤しむ
- 斎藤幸美(さいとうゆきみ)……陸の幼馴染にして理解者。剣道部に所属するイケメン、ではなく女子。一部の女子からは性別を誤解されており、熱烈な視線を集めてやまない。ざっくりした性格で容赦ない物言いをすることも。陸のそばにいる女子の中ではかなりまとな人物に思われるが――
- 柊木まりあ(ひいらぎまりあ)……特進クラスの優等生。幸美といつも一緒にいる陸のことを毛嫌いしている。陸には厳しいが幸美には甘い
- 樋野美海(ひのみう)……三年生。文芸部部長。ネタになるなら、と陸に興味を持つ。黙っていれば清楚な文学少女に見えなくもない。趣味に生きている
- 三ケ木璃子(みかぎりこ)……陸のクラスメイトでメイクが得意。明るい性格で男子からもモテる
感想
不幸体質な主人公が魅せる学園ミステリー
女難体質と探偵体質、どちらかだけでも物語が成り立ちそうなのに、本書の主人公はなんと両方をあわせ持っています。
おまけに十八歳までに運命の相手と出会わなければ死ぬという真丘家の宿命まで背負っており、恐ろしいまでの不幸の盛り合わせ。というか、真丘家の血筋、よく途絶えずにすんでいるな。
幼少のころから凄まじい体験をしてきた主人公、真丘陸。女難体質のせいで初めて会った女性から熱烈で歪んだアプローチを受け、探偵体質のせいで町を歩けば大小様々な事件に出くわしてしまう。幼馴染や家族から渡される誕生日プレゼントは、実用的な防犯グッズがデフォ。
行く先々で事件が起こる、たくさんの異性から好意を向けられる。そんなミステリとライトノベルの主人公にありがちな体質を利用した上、ドッキングさせるという発想が絶妙でした。
過酷な運命に晒されながら、それでも自暴自棄に陥ることなく前を向いて生きようとする。ときには自らの不幸体質すら利用し、身をていして犯人確保に全力をそそぐ主人公の姿が格好いい!
幼馴染の幸美(ユキ)を咄嗟に庇うシーンも最高でした。
普段は目立たなくても、いざというときに動ける男子はやっぱり違いますよね。
普通のラノベだったらここから胸が高鳴るラブコメが始まってもおかしくない状況なのに、実際に起きたのは殺伐とした殺人事件……。これが探偵体質を持つ主人公の宿命か。
幼馴染の幸美が最も運命の相手に近そうな感じがしますが、陸の不幸体質がある限りそう簡単にはいかないのかな? というより、どうやって運命の人だとわかるのだろう。犯人が運命の人かもしれないという不穏すぎる記述も、本書を読む限りあり得そうだから怖い。
主人公が不幸すぎるゆえに、どんな展開が待ち受けているのか予測がつきません。そんなところも面白かったです。
以下、各話のあらすじと感想を書いていきます。
第1話:新入生歓迎会殺人事件
イベント補助委員に任命されてしまった陸は新入生歓迎会の準備で早速雑用を押しつけられる。迎えた歓迎会当日。締めの挨拶担当の学年主任が、時間になってもなぜか現れない。不審に思いステージへ探しにいった陸が目にしたのは、学年主任の変わり果てた姿だった
初っ端から殺人事件が起こるという、真丘陸の探偵体質の強さが窺い知れる第1話です。
新入生歓迎会という華やかなイベントの裏で起こったショッキングな出来事ですが、事件に慣れすぎた主人公の一人称のおかげでいい感じに肩の力を抜いて読めました。
学年主任は一見すると自殺のよう。しかもステージ奥に入るための両側の出入り口はどちらも通行不能となっており、いわゆる密室状態。
殺人であれば、犯人はいったいどうやってステージ上に侵入したのか――。
第1話にして正統派に近いミステリー。
斬新だと思ったのは、容疑者の名前が一貫して明かされずに「女史」や「名誉運動部」、「三角巾」とあだ名で統一されていたところ。
小説を読んでいると誰が誰だっけとこんがらがるときがありますが、本書では容疑者の特徴を示すあだ名で基本呼ばれていたので、混乱することがありませんでした。これはわかりやすい。
第2話:空から美女がふってくる
カラオケルームで開かれた学園祭実行委員の集まりに参加した陸。解散後、女子三人と一緒に帰ることになったが、途中でふと嫌な予感に襲われる。次の瞬間、ビルの上から女性が落ちてきた――
今度は学校外での事件です。
被害者と容疑者ともに大人が登場人物であるため、第1話とは打って変わり社会の歪んだ一面があらわになります。
主人公の鋭い洞察力と確かな推理力により他殺の線が濃厚になる中、事件の背景に浮かび上がるとある会社の不穏な過去。労働監督基準監督署のがさ入れ、そして中間管理職の首吊り自殺騒動。
推理自体はあっさり終わるものの、ひやりとした冷たさと後味の悪さの残るお話でした。
第3話:副担任自殺未遂事件
化学の授業開始時間になっても、担当の師岡先生が現れない。日直だった陸は、三ケ木とともに先生を捜しに化学準備室へ向かう。そこで陸は、中の異変に気がつく。間一髪師岡先生を助け出すことに成功するも、陸は自殺未遂に不審な点を見つける。
担任の次はまさかの副担任が犠牲に……。
ああ、陸のいるクラスを受け持ったばかりに。
そのうちクラスメイトにも犠牲者が出るんじゃなかろうか。
陸が死神と呼ばれる日もそう遠くはないかもしれません。
本章では、樋野先輩の強すぎる創作活動への入れ込み具合が描かれます。やっぱり陸のまわりにいる異性はあくが強い。
樋野先輩が口にした早割とはなんぞや? と一瞬思いましたが、たぶんあれですね、同人誌の原稿を印刷業者にはやめに渡すと製本費用が何割引かされるっていうやつ。どうやら文芸誌の発刊だけではなく同人活動もしている様子。
女難体質ゆえ美少女と二人きりになることを恐れる主人公が新鮮でした。ラブコメには程遠い。
第4話:葉桜高校学園祭
度重なる事件発生を受け、規模を縮小して開催されることとなった葉桜高校学園祭。かつてのミスコン女王も来校し、学園祭は盛り上がりを見せる。そんな中、突如トラブルが発生し――。
ついにやってきた学園祭当日。
異性との距離を縮める絶好のイベント! ですが、陸の探偵体質がここでもいかんなく発揮されます。
学園祭中止を求めた脅迫文。
体育館ステージにぶちまけられた大量の油。
浮かれる生徒たちの裏でうごめく悪意。
やがて事件は最悪の展開をむかえ――。
本章ではこれまでの話で張り巡らされた伏線が一気に回収されていきます。
思わぬ人物が思わぬ行動をとり、そうきたか! としてやられた気分。
最後に
学園内での殺人事件という重い内容と、主人公の軽妙な語り口とでうまくバランスが取られている感じ。
個人的にミステリー要素は薄味な印象。同じMF文庫Jから出ている『また殺されてしまったのですね、探偵様』を読んだときにも思いましたが、ライトノベルで殺人事件を扱う、しかも短編で、というのはけっこう難易度が高い気がします。
ただでさえラノベは登場人物同士の掛け合いが多いのに、事件内容や関係者の説明も必要になってくるものだから、だいぶページが割かれてしまう。両立しようとするとキャラや事件の深堀が十分にできず、結果、読み手としては少し物足りなさを感じてしまうのかも。
とある登場人物の態度がけっこうひん曲がっており、最後まで改まることがなかったので、ちょっとモヤモヤ感が残りました。その点が少し残念。
ラストの描写が不穏で、先の展開が非常に気になりました!
タイトルにナンバリングがふられていることからも、次巻が出るのは確実でしょうか?
主人公にはさらなる受難の日々が待ち受けていそう。
運命の相手が現れるのか。その相手とはいったい誰なのか。今後どう物語が続くのか楽しみです。
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