『君と放課後リスタート』瀬川コウ(著)感想

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書評

今回紹介するのは、瀬川コウ氏の『君と放課後リスタート』です。

クラスメイト全員が記憶喪失に陥るという、ほかに類を見ない特殊な設定がきらりと光る作品です。

「理想の三組」と呼ばれた高校のクラス全員がある日突然記憶喪失に…!?一年間、築き上げた人間関係にまつわる記憶もすべて失われた状態で次々とわきあがってくる謎。「僕」自身もまた、彼女だったはずの叉桜澄と気が合わずに戸惑う。僕は、どんな人間だったのか。どんな君を好きだったのか―。書き下ろし新シリーズ、開幕。


「BOOK」データベースより

内容紹介からはいまいち読み取れないかもしれませんが、本書は記憶喪失の原因を探る物語ではなく、記憶喪失が起きたことで生じる日常の謎を解決する物語となっています(次回作以降で、原因についても解明が進むと思われます)。

あらすじ

主人公は、「僕」こと九瀬永一

彼は、相棒の叉桜澄と、記憶を失ってしまったことで生じる様々な問題の解決に乗り出していきます。

プロローグ

目を覚ますと、クラスメイトのことを誰一人として思い出せなくなっていた。クラスメイトだけではない。担任の顔も、両親の顔さえも。

クラスから消えた一人

二年三組のメッセージグループのやり取りから、生徒が一人消えているのではないかという噂が流れ出す。記憶喪失もこの幽霊の仕業ではないかという憶測が飛び交う中、メッセージアプリのユーザー名から、消えた一人を探し出そうとする九瀬と叉桜。やがて幽霊騒動の犯人にあたりをつけるが、その先にはさらなる謎が待っていた。

失われた宛先

クラスメイトから初めて相談を持ち掛けられる九瀬たち。その内容とは、記憶を失う前に書かれた宛先不明のラブレターから、好きな相手を見つけてほしいというものだった。好きだったときの記憶を失っても、人はまた同じ人を好きになるのだろうか。 気持ちを確かめるため、九瀬たちは一計を案じる。

今と昔、本当の僕

九瀬のスマホに、奇妙なメールが送られてきた。僕が今の僕である以前、一体何者だったのか。以前の自分を知るため、九瀬は叉桜とともに、不穏なものを感じ取りながらも指示に従う。すると、再びスマホにメールが――。

記憶が失われたとき、いまの自分は前の自分と同じでいられるのか

本書のテーマは、ずばり「記憶が失われても、人はその人たり得るのか」ということです。

自分を構成する大切な要素である記憶。それが失われてしまったとき、はたしていまの自分は前の自分と同じでいると言えるのか。

主人公の九瀬をはじめ、記憶を失ったクラスメイトの多くが、同じ壁にぶつかり苦悩します。

様々な形で浮き彫りになる、過去と現在の相違点。彼らはいまの自分に違和感をおぼえながら、それでもなんとか折り合いをつけていこうとしていきます。

人間関係が個人に与える影響は絶大なものだと思います。学校のクラスなんかだと、誰かと比較しながら生活していることがほとんどでしょうし。

誰かを尊敬して自分を変えようと思う。誰かに傷つけられて自分を変えてしまう。

そういった変化のきっかけとなった物事が一気に失われてしまえば、自分の根幹が揺らいだとしてもおかしくはありません。

アメリカでは、記憶を失ったことでトラウマだった出来事が消え、声が変わった、という事例もあるそうで、記憶と人格との間にある関係性は、とても奥が深いものだと実感しました。

読みながら、自分のアイデンティティーはどこにあるんだろう、と考えてしまいましたね。

記憶喪失の経験がないため、登場人物たちの感情については想像するしかありませんでしたが、いろいろと考えさせられるお話でした。

最後に

一味違った雰囲気を楽しめるミステリ小説です。

どうやらシリーズものとして続くようなので、次回作が出るのが楽しみ!

理想の三組にいったいなにが起こったのか……。

本書の最大の謎については、この巻だけでは解決しませんので、そこだけ注意してください。

気になった方は、ぜひご一読を!

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